敷居の高い印象がある生け花ですが、多様な効用やメリットが期待できます。
生け花を実践する魅力を、古流松藤会(こりゅうしょうとうかい)家元の池田理英先生に伺いました。
生け花は大人だけでなく子どもも楽しむことができます。どうすれば長持ちするかを考えながら生けたり、生けた後に行う手入れなどを通じて、命を大切にする気持ちが育まれるでしょう。
子どもは先入観がなく、大人では思いもよらない花材の使い方をすることがあります。一緒に生ける時には、花材を切る長さや生ける順番などを細かく教えてあげるのも良いですが、子どもの好きなように生けさせると、生け花の楽しさに気付いてくれるでしょう。どの花が一番好きか、どの向きが一番きれいだと思うかなど、会話をしながら見守ってあげてください。
生け花はハサミを始めとした道具の正しい使い方を覚える機会にもなります。子ども用の小さいハサミもあり、自分で花材を切ることができます。まだ腕力の弱い子が生ける時には、あまり茎が固くない花材を準備してあげてください。家にあるマグカップや空き瓶を使えば、高価な花器を割る心配もありません。
また、子どもだけでなく高齢の方にとっても、生け花は手を動かしたり頭を使ったりするトレーニングになります。おじいちゃん・おばあちゃんから子どもまでみんなで楽しめる生け花に、家族でチャレンジしてみませんか。
女性的なイメージのある生け花ですが、平安時代に将軍や寺院のお坊さんが始めた「花軍」という遊びも生け花の成立に影響しています。「花合わせ」や「花競べ」とも言い、季節の草花を並べて、それを題材に歌を詠み合う和歌の集いでした。やがて各自がさまざまな草花を持ち寄って花瓶に飾り、その美しさを競い合うようになりました。ここから次第に室内に花が飾られるようになっていきます。
花の持つリラックス効果はよく知られていますが、生け花には他にもさまざまな効果があると言われています。例えば決断力の養成。花材を切りながら作品全体のバランスを整える中で、葉や茎のどこにハサミを入れるか決断する練習になります。また、「今、ここ」に集中することで注意力や集中力を高めるマインドフルネス効果も期待できます。集中して花と向き合うと、気分もすっきりリフレッシュできますよ。最近ではこうした効果に注目してビジネスパーソン向けの教室が開かれることもあり、生け花の活躍の場はどんどん広がっています。
生け花の最大の魅力の一つが、室内で季節を感じられることです。春は多彩な花々が楽しめますし、夏は新緑が美しく輝きます。紅葉や枯れものを取り入れると秋の風情を感じられますし、冬には赤い実をつける花材を使うなど、四季折々の自然を部屋に取り入れることができます。
また、母の日ならカーネーション、お盆はハスなど、いくつかの年中行事には決まった花を飾ったり贈ったりする習慣があります。日程の近い行事の花を飾ると、時節を感じられますし、家族の話題のきっかけにもなります。季節の変わり目である節句には、花を飾って自然の恵みに感謝し健康や長寿を願います。三月三日の桃の節句はモモ、九月九日の重陽の節句※はキクなど、節句にも決まった花があります。
戸外の景色を室内に取り込むことも生け花の楽しみです。部屋に生け花があると外出先でも植物に目が行くようになり、季節の変化に敏感になります。暮らしの中で自然とつながる喜びを味わいましょう。
※昔の中国で「陽」の意味があるとされた奇数のうち、一桁で最大である九が重なる九月九日を大変おめでたい日と考え、長寿を願ったことから始まった風習。
ヘンペイヤナギヅル、
ヤマゴボウ、トリカブト器の口を全て使わず作品に空間をもたせることで、右のヤナギヅルの存在が際立ちます。
ススキ、スプレーギク野に咲くように、凝った作り込みはせず自然調に生けました。秋草には籠の花器がよく合います。
ラン、アイビー、
ゴールデンスティック同系色の花材を揃えて取り合わせることで、素材の形の違いを作品の中で楽しみましょう。
アドバイス
池田 理英先生(いけだ りえい)
伝統的な生花と、時代に合わせた現代華を基本とする「古流松藤会」の六世家元。家元の妹であった祖母の指導を幼少期より受けて育つ。古流松藤会の勉強を始めたのは高校時代。以降研究・努力を続け、2010年に松藤斎六世として家元を継承し四代目池田理英を襲名。(公財)日本いけばな芸術協会理事。
取材協力:全国花き振興協議会
花産業6団体でつくる連合組織。農林水産省が推進する「くらしに花を取り入れる新需要創出事業」を実施し、新たな花文化の創出を目指して「Flower Friday※」の普及に取り組んでいる。
※Flower Fridayとは、週末に花や緑を飾ってリラッ クスした時間を楽しむための提案。
2019年10月現在の情報となります。