対談 【第3回】長寿社会における生きがいのあるまちづくり
豊四季台は近い将来の日本
司会 それは個人の生きがいの問題でもあり、社会にとっての問題でもあるわけですね。
木村 多くの場合「介護予防のために健康づくりをしましょう」といっても、「はい、そうですか」と来るほど単純ではないのです。そう長くは続かない。つまり高齢者が持っている優れた能力や経験を、地域のニーズに合わせた働き方ができれば素晴らしい。これからの地方自治体の取り組みの一番大きな勝負事だと私は思っているのです。
司会 佐藤さんはURで長く勤めて来られて、ここ豊四季台の団地の状況をどう見ていますか。
佐藤 現在、全国の高齢化率は平均24%ですが、豊四季台団地は高齢化率が40%を超えている地域です。この団地は、東京オリンピックの年(1964年)に建設され、建物の老朽化に伴い建替えが進められているところですが、この地域が、高齢者でもいつまでも安心して住み続けられる住まい環境になることを目指し、柏市・IOG・URの3者で取り組みを進めているところです。
この高齢化率が4割超えというのは豊四季台団地が特別ではありません。近い将来、郊外の団地では同じように高齢化率が高くなりますので、豊四季台団地のプロジェクトが、他団地・他地域でのモデルになればと考えております。
JR柏駅(千葉県)から徒歩約12-20分に位置する「豊四季台団地」。老朽化から建て替えが進んでいる。
上:建て替え前/下:建て替え後
司会 廣瀬さんは大和ハウスからIOGに出向されて、今どんな研究をされていますか。
廣瀬 「要介護度が重くなっても住み続けられる住まい」とはどういうものかを調べています。主に住まい方や建築という視点で関わっています。やはり大和ハウスの住まいづくり、住まい方の提案という場面で、実際の高齢者の住まい方から得られた知見を持ち帰るのが使命だと思っています。
司会 IOGに来られて、大きな発見はありましたか。
廣瀬 高齢化が進んでいる団地の雰囲気、悪くいうと衰退している部分を目の当たりにして、こういうところで改めてきちんとまちづくりをやる必要性を感じました。もちろん地域全体が沈んでいるのではなく、いろんなコミュニティが出来ていてまちの担い手になれる存在もいる。そういう方々の活動をしっかりとまちづくりにつなげていくためには外からの介入も大事です。この辺りを現場で感じ取れたことが一番大きかったと思います。
あとは、大和ハウスの外に出ているので、当社の中にもいろんな課題があるのだろうと外から見て感じることもあります。
秋山先生が提唱するジェロントロジーという学問では「分野横断」という言葉があります。企業も縦割りではなく、横串しで、同じコンセプトを持って動かなければならないと感じました。
司会 高齢化率が4割とはとても高い数字です。高齢化率が5割を超えると「限界集落」と定義されます。団地そのものが限界集落になりかねないという危機的な状況ですね。
木村 IOGが、この豊四季台団地のプロジェクトを始めた時には高齢化率は39%でした。ところが、柏市の全体の高齢化率は18%程度です。柏市全体が39%になるのが、20~30年後です。つまり、今の豊四季団地が「20~30年後の柏市の姿」なのです。
一方、いま団地などでは何が起こっているかというと、とても痛ましいことですが毎年何件か孤独死事件が起きています。団地の中で半年間も発見されなかったなどの例もありました。
しかもほとんどが独居高齢者です。周りとの人間関係もない。外にも出ない。やはり、この豊四季台で「柏市の将来のまちづくり」をやらなければならないと思いました。