対談 【第1回】サステナビリティを考える
会社は従業員とその家族を守るのが最優先(樋口)
枝廣 大和ハウスは壁面緑化を進めていますが、ヒートアイランド対策やCO2吸収などの理由以外にも、「文化的な価値」を創造することが大事です。駅を出て緑があったら、環境問題うんぬんと言わなくても、何が大事か分かる。このほうが気持ちいいよねとか。そういう影響力がとても大きい。
そういった文化的な価値、例えば緑化の文化的な価値を社会がもっと認めて、応援するようなことをしていかないと、企業だけの責任にしていると難しいでしょう。
もしかしたら、文化的な価値まで含めて社会から認められるということがないと、大金を壁面緑化にかけたことを株主から追求されるかもしれません。そうなると企業としても二の足を踏むところが増えてしまいます。
森 そういった観点でいくと、企業には株主、従業員、顧客、あるいは地域社会などの多様なステークホルダーがいますが、樋口さんはもし順位を付けるとすればどうなりますか。
樋口 もちろん役に立つ商品・サービスをお客様に認めてもらった上での話ですが、私は、会社は従業員とその家族を守るのが最優先だと思います。そうすることで業績を上げ、株主様たちにしかるべき妥当な配当が出せる。そして税金を納めることによって国家に貢献できる。そのためには持続的に利益を出していくことも不可欠です。
枝廣 多くの企業が、実際には株主を優先しているようです。米国で株の平均保有期間が、かつては平均6年くらいだったのが半年ぐらいに短くなったという話があります。今はインターネット等で買った瞬間に売れるようなプログラムが多くあるようです。そうすると、「株主のために」といっても、本当にやるべきことから離れてしまいます。長期的な視点を共有してくれる株主をいかに増やすか。私はCSRや環境の部署もすごく大事ですが、株主にどうやってそれを伝えるかについては、IR部門が鍵を握っていると思っています。
樋口 従業員と家族。創業者が亡くなる前に、「多くの従業員とその後には家族がついている。その人たちを路頭に迷わすようなことは断じてできへんのやからな。だから会社を頼むぞ」と言われたんです。その通りだと思い、受け止めました。
森 少し前までは「お客様は神様です」という時代がありました。それが樋口さんのように「社員を幸せにしないとお客様を幸せにはできない」という経営者が増えてきましたね。
枝廣 先ほど樋口会長は人材の大事さを仰った。昔の日本だったら、例えば戦後の日本をどういう社会にしていくか、財界人も政治家もとても大きな視点で考えて、目先はプラスにならないかも知れないけれど、将来のため、社会のためにこれはやらないといけないと考え、実践するリーダーがいたと思うんですよね。
今それがすごく欠けていると思います。そういうリーダーを求めつつも、少しでも何かあるとすぐ降ろしてしまう。その悪循環で、真のリーダーが出てこないし、出てこようとしてもつぶされる。それはとても不幸です。