関連ルポ 「緑視率」アップで都市の価値高める
JR新大阪駅前「大阪花屏風」
「緑視率」とは、街を眺めた時に、視界に占める緑の割合を指す。
大和リースは壁面緑化や屋上緑化の技術を駆使して、この緑視率を高めようとしている。そこには、事業を通じて社会の課題を解決し、都市の価値を高めようとの思いがある。
大阪のランドマークタワーとして親しまれている30階建ての「大阪マルビル」を緑で覆うプロジェクトが進んでいる。同ビルは1976年の完成当時、梅田エリアでは最高層の建物として完成し、円柱のユニークな形状も相まって人気を集めた。その後、再開発などによって周辺に高層ビルが次々に整備されていく。今では梅田周辺ではまとまった緑を見ることはできないのが現状だ。
プロジェクトは、建築家の安藤忠雄氏が大和ハウスグループを統括している大和ハウス工業の樋口武男会長に「マルビルを都市の大樹にしよう」と呼びかけたことから始まった。高さ124メートル、直径約30メートルの円柱状のビルを巨大な木に見立て、1階から6階(地上約30メートル)の壁面がツタやツルで緑化されている。緑化エリアは、「大阪マルビル 緑のテラス」と名付けられ、多くの人が行き交う1、2階部分の公開空地部分はオープンスペースに改装し、周囲に植えられた色とりどりの草花を楽しむことができる。大和ハウス工業と大和リースをはじめとする大和ハウスグループが2013年1月から着手し、大阪のシンボルに育てていく壮大な計画だ。近代化の象徴である大都市空間の中に立ち現れた緑は、道行く人に自然の息吹を感じさせるとともに、まちに潤いと憩いの空間をつくりだしている。
左から、安積陽一(環境緑化事業部事業統括部技術課主任)、谷本知子(大阪本店環境緑化営業所営業一課上席主任)、長村多恵子(環境緑化事業部事業統括部営業販促課)
壁面緑化:壁面に植物が育つ環境を整備。写真は6階まで緑で覆われた大阪マルビル
緑を媒介にした都市開発
世界の大都市ではすでに緑化の取り組みが進んでおり、都市に新たな価値を生み出した成功例も数多い。例えば、米国・ニューヨークの公園「ハイライン」。1930年代に開業した高架の鉄道貨物用線路が1990年代後半に緑あふれる公園に整備されると、多くの市民や観光客が訪れる新名所として文化的な催しも数多く開かれる街として生まれ変わった。
屋上緑化:屋上環境に合わせた緑化提案を行っている
また、韓国・ソウル市中心部を東西に流れる清渓川(チョンゲチョン)は、人と自然が共生する都市内の親水空間として復活させたいとの声が市民から上がった。これを受けソウル市は、高架道路を一部撤去して、かつてそうだったように身近で緑あふれる川として再生し、市民が憩い、集う場へと変ぼうを遂げている。
世界の大都市が緑を媒介にしたまちづくりで新たな都市開発のモデルを提示し、都市の価値を高めている中で、大和リースは環境緑化事業「ECOLOGREEN(エコログリーン)」を通じて、緑を活用した次世代の都市づくりに貢献しようとしている。
外構緑化:駐車場を中心に緑化のノウハウは豊富だ
室内緑化:建物内でもより自然な緑の成育を可能にした
欧米に後れ取る都市緑化
「ECOLOGREEN(エコログリーン)」は、ヒートアイランド現象の緩和をねらって全国の主要都市で義務化された屋上緑化の推進から始まった。その後、壁面緑化・外構緑化・室内緑化へと技術・ノウハウを広げて、商業施設や公共施設などに緑の空間を次々と増やしている。
中でも近年、積極的に取り組んでいるのが壁面緑化を活用した都市の環境緑化だ。「欧米と比べて日本の都市には緑が少ない。とはいえ都市部は土地に制約があり樹木を増やすことは難しい。そこで建物の外壁を緑化することで課題に応えることができる」(大阪本店環境緑化営業所営業一課上席主任・谷本知子)と話す。
自治体が都市緑化に本腰を入れて取り組んでいることも追い風になっている。東京都が2011年12月に策定した「2020年の東京」計画では「水と緑の回廊で包まれた、美しいまち東京を復活させる」と目標を掲げる。また、大阪府が2012年6月に策定した、2050年の大阪の姿を示す「グランドデザイン・大阪」では、「みどりを圧倒的に増やす」ことが掲げられた。
環境改善でなく価値向上へ
また、JR新大阪駅前にも新しい緑豊かな空間が存在する。事業者を公募し、駅の利用者に提案内容について公開投票を行い、大和リースの「大阪花屏風」が大きな支持を得て採用された。23メートルの壁面が「草花の屏風」に見立てられ、約20種類の植物がいきいきと成長している。完成から約1年を経た現在、駅利用者のオアシスとして、ビジネスパーソンや家族連れがひと休みできるスペースとして利用されている。
ヒートアイランド現象の軽減を目的に導入された緑化だが、「今では人の心を癒し、空間に彩りを与えるものとして、エリア、建物に新しい価値を生んでいる。都市を立体的に緑化し、訪れる人、地域に住む人が自然と一体となれる場所をつくりたい」(環境緑化事業部事業統括部技術課主任・安積陽一)という。
都市の緑化にかかわるすべての相談に対する、コンシェルジュとしての機能を目指す大和リースの「ECOLOGREEN(エコログリーン)」は、都市、人と緑のかかわりを再構築する可能性を秘めている。
ビルの壁面緑化で高い「緑視率」を実現
大和リースが都市緑化を進めていくうえで重視しているのが「緑視率」という指標だ。ある場所から眺めた時に、人の視野に占める樹木などの緑の面積の比率のことを指す。いわば人が緑を実感できる比率といってもよい。国土交通省の調査では、緑視率が高い場所ほど、その場所について「安らぎのある」「さわやかな」「潤いのある」と感じる人の割合が高いことがわかっている。
この「緑視率」を高めていくうえで欠かせないのが建物や施設の外側を緑で覆う壁面緑化の技術だ。大和リースでは2年前に、ヨーロッパで実績のあるフランス・カネヴァフロール社とライセンス契約し、先進の壁面緑化技術を導入した。
壁面緑化によく見られるポット型ではなく、壁全体に十分な土を確保して、植物が自然のままに育つ環境を垂直面で再現しているのが特徴だ。土の壁の中を走る潅水システムは、水分センサーが備えられており、水分の量や偏りを自動制御。メンテナンスも遠隔で可能だ。「単なる飾りではなく、そこで植物を育てていくという思想のもとに開発された技術です。導入した技術をもとに日本の気候風土に合った水分量の制御、植物の種類を選び、改良を図りました」(環境緑化事業部事業統括部営業販促課・長村多恵子)
「緑視率」をさらに高めるべく、あらゆる場所で壁面緑化が進められるようにするための研究開発を続けている。
大阪マルビル緑化プロジェクト「都市の大樹」完成記念講演会開催
「緑の力で街を元気に」安藤忠雄氏が講演
大和ハウスグループと建築家安藤忠雄氏との協働による「大阪マルビル緑化プロジェクト・都市の大樹」の完成記念式典が2013年6月7日、大阪・梅田の大阪マルビルで開かれた。大和ハウス工業株式会社の樋口武男代表取締役会長兼CEO(当時)が「世の中の多くの人の役に立ち喜んでもらえる事業に取り組んでいる。緑の大樹を大阪のシンボルにしたい」とあいさつ。関係者によるテープカット式が行われた。
続いてプロジェクトの発案者でもある安藤氏が「緑の力で街を元気に」をテーマに講演。一般から公募した400人が聴講した。安藤氏自身が携わっている大阪の中之島周辺に7000本の桜を植える「平成の通り抜け」や土佐堀川沿いの民間ビルの緑化をはじめとする、都市における緑化の取り組みを紹介。また、「都市の大樹」プロジェクトについては、「これから緑化をビルの上層階へと上げていくことは大変だが、だからこそ見る人に面白いと思ってもらえる。世界に誇ることができ、都市の中の記憶にとどまるような存在にしたい」と思いを語った。
「大阪を緑でいっぱいの街に」と安藤氏