対談 【第2回】都市緑化の意義と役割
欧州では男子の8割が林業にあこがれる
オルタナ・森 摂 田中淳夫さんは森林ジャーナリストなので、もちろん森林が専門ですが、「都市の緑」にも興味がおありでしょう。
田中 淳夫 去年、スイスを取材で訪れましたが、欧州の都市は緑がとても多いですね。日本の都市の緑なら公園や街路樹のイメージですが、欧州の都市には巨大な都市林、大きな森がある。欧州には森と結び付いた文化があり、都会に大きな森があるということが、住民たちに与える影響というのは無視できないし、人々の心に与える影響も大きい。
実際、ドイツやスイスでは、男の子の8割は森の仕事にあこがれるそうです。日本ではコンマ以下ですよね。男の子は皆、フォレスターになりたい。でも実際なれなくて渋々諦めて他の仕事につくそうです。
森 ラファエルさんはフランス出身とのことですが、どうして大和リースで働いているのですか。
大和リース ラファエル・フゾ 私は3年前に日本に来て、大学に通っていました。住んでいたのは大阪なんです。大阪のあちこちに住んでいました。その後海外インターンシッププログラムを通じて、大和リースで働くことになりました。「カネヴァフロール社」という独自の緑化技術を持つフランス企業と当社の提携業務をサポートしています。
森 大阪へ初めて来たときにはどういう印象でしたか。
ラファエル 19歳で日本に来るまで、外国にはあまり行ったことがありませんでした。もともとフランスの田舎育ちで、日本のコンクリートジャングルにあこがれがありましたね。子どものころ、周りが畑ばっかりだったので。
森 コンクリートジャングルに住んだ感想はどうですか。
ラファエル 今はちょっと。緑の故郷に戻りたいという気持ちもあります(笑)。
森 熊谷さんは「三井アウトレットパーク木更津」、「沖縄アウトレットモールあしびなー」などの商業施設のランドスケープデザインを担当されてきました。具体的にはどんなお仕事になりますか。
熊谷 玄 ランドスケープデザインは、日本では定着している職業ではありません。定義がとてもあいまいなのです。建設業ですらないでしょう。でも、だからこそ面白い。正直、この仕事を始めるまでケヤキとサクラの区別も付かなかった。でも、自分の専門領域というか職能を自分で定義していけるというところにかなり魅力を感じています。
森 熊谷さんはこれまで大和リースさんとは、どんなランドスケープデザインを担当されてこられたのですか。
熊谷 沖縄アウトレットモールあしびなー、大阪花屏風(新大阪駅前の緑化施設)、大阪マルビル緑のテラス(大阪駅前)、フレスポ飛騨高山(岐阜県高山市のショッピングセンター)などですね。
大阪マルビルは、テラスのオープンスペースにもう少し緑を入れていこう、緑視率(視角に占める緑の割合)を上げようと計画していました。そして、建築家の安藤忠雄さんが大和ハウスの樋口会長に、「ビルの壁面を緑化して都市の大樹を作ったらどうか」と提案されたことをきっかけに、ビルの壁面と広場を一体的に緑化していくことになりました。
フレスポ飛騨高山(岐阜)に設けられた地域住民の交流の場「まちの縁側」四季の植栽を楽しめる場となる。(上:設計時のイメージ図 下:完成した「まちの縁側」)
森 大阪マルビルの壁面緑化は、どのようなものですか。
大和リース 安積 陽一 大阪マルビルの壁面緑化に使われている植物はヘデラ・カナリエンシスとサネカズラですね。1階から3階までの柱部分と4階の外回りにプランターを設置して、そこからステンレス製のワイヤーメッシュで蔓を伸ばしているのです。
また、公開空地である1階広場の壁面緑化は、大和リースが提携し国内で販売しているフランス・カネヴァフロール社の壁面緑化システムを用いて、オタフクナンテンやカポックなど約20種類の植物を、40m²と30m²の壁面スペースに配置しています。
森 カネヴァフロール社の壁面緑化の技術面の強みはどこにあるのですか。
ラファエル フレームユニットの中が土で全部つながっていることです。緑化システムには多様な方式がありますが、カネヴァフロール社のフレームユニットは全部つながっていて根が広がっていく。それで植物が元気に育つのです。フランスでは、ル・モンド(新聞社)や、カルフール社が入っているビルの緑化も手掛けました。
沖縄アウトレットモールあしびなーには地元の子ども達が作ったオリジナルのシーサー43体を設置。地元の人と施設のつながりを生んだ。