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関連ルポ 環境・防災・地域に配慮~茅ヶ崎の高齢者施設~

取材協力:alterna

海に面し、温暖な気候に恵まれた湘南・茅ケ崎。2012年にオープンした、大和ハウスライフサポートが運営する有料老人ホーム「ネオ・サミット茅ヶ崎」は先進的な環境設備を導入。しかも津波発生時に屋上を避難場所として開放するなど、防災や地域との共生にも意欲的だ。

「ここには大和ハウスグループの総力が結集されている」。「ネオ・サミット茅ヶ崎」の坂口和宏館長がそう話すのには理由がある。

一つは、充実した環境設備だ。屋上部には太陽光パネルが並び、発電出力は30キロワット。ロビーや食堂など、施設共用部の照明で消費する電力の約35%をまかなえる。年間の発電電力量は約3万キロワット時で、節約できる電気料金は年間約45万円。しかも施設内の照明には消費電力が少なく長寿命のLEDライトを導入し、蛍光灯照明を設置した場合と比べて45%も消費電力を削減できる。

右・白田 透(大和ハウス工業 東京本店建築事業部設計部次長)左・坂口和宏(大和ハウスライフサポート取締役 ネオ・サミット茅ヶ崎館長)

野菜の「自給」も可能だ。大和ハウス工業が開発したコンテナ式植物栽培ユニット「アグリキューブ」をベースにカスタマイズしたシステムが導入され、ここで育てられたレタスなど5種類の葉物野菜は、食堂で提供されるメニューに利用。施設入居者の食卓を彩る。

このほかにも入居者の全居室の窓には断熱効果の高いペアガラスを使用し、冷暖房のエネルギー消費を節約。さらに洗浄水を70%も減らした節水型トイレ、照明の消し忘れを防ぐ人感センサーなども導入された。これらの設備によるCO2の削減効果は年間17.4トンに上り、建物の環境性能を評価する「CASBEE」では「Aランク」の評価となった。生物多様性への配慮では、屋上緑化や並木道の形成なども行っている。

東日本大震災を教訓に

そしてもう一つが、災害への対応。近い将来発生する可能性が高いといわれる東南海地震では、施設付近での津波の高さは最大で5メートルと予想されている。そこで施設の地盤レベルを津波の高さより1.9メートル高い場所に設定。さらに、津波などの非常時に車イスでも避難できるよう、屋上に通じる緊急避難用スロープを設置した。施設は茅ヶ崎市と避難場所に関する協定を結んでおり、津波災害発生時には近隣住民も屋上への避難が可能だ。

ネオ・サミット茅ヶ崎の設計を担当した、大和ハウス工業東京本店建築設計部の白田透次長は「施設の計画立案当初、津波に対する対策は地盤レベル以外想定していなかった。しかし『3・11』を踏まえてBCP(事業継続性計画)の再検討も行いつつ、屋上を避難場所として開放するなどの総合的な災害対策をまとめた」と話す。

実際に、2013年3月10日に行われた市の津波を想定した避難訓練では、市民170人が施設屋上に避難することができた。

自家発電装置

井戸

このほか、自家発電設備を通常よりも発電容量を1.5倍ほど増加したのに加えて、津波による被害を防ぐために受変電設備を屋上に設置。さらに敷地内には井戸、災害時にかまどとして使えるベンチ、トイレを仮設できるマンホールなども設けられている。

シルバー施設の「未来像」

海岸にも程近いネオ・サミット茅ヶ崎

このようにネオ・サミット茅ヶ崎には、自然エネルギー利用やCO2削減、食料の自給、生物多様性への配慮、BCP、津波対策など、従来の高齢者施設には見られない要素が数多く盛り込まれた。

「温暖で自然豊かな茅ヶ崎の環境の良さを最大限引き出す施設にした。老後を恵まれた自然環境の中で過ごしたいとの思いで、この施設を選ぶ入居者も多い。そうした人々にとって、充実した環境設備はステータスにもなっている。そして万一の時に備える防災設備は、施設利用者はもとより、地域の方々にとっての安心にもつながる」(坂口氏)

環境や災害対応の設備を充実したことで、総工費は通常よりも増加しているが、白田氏は「初期費用は掛かっても、環境設備の導入でランニングコストは低くなる」と話す。

「高齢者施設が、環境や防災をはじめとする時代のニーズに対応することで、プラスアルファの安心を提供することができる。そうした要素を取り入れたいという高齢者対応施設の事業者の気運はある」(白田氏)

施設がオープンして以降、時には台湾や中国などからも、高齢者対応施設の事業者が毎週のように見学に訪れるという。大和ハウスグループがネオ・サミット茅ヶ崎を通じて示そうとしているのは、環境や防災と介護、福祉が融合した、有料老人ホームなどの高齢者対応施設における「未来像」だ。

茅ヶ崎に溶け込む工夫

サザンオールスターズや俳優の加山雄三の地元としても有名な湘南・茅ヶ崎。海に面した温暖なこの地は明治以降、政治家や文化人、実業家が住宅や別荘を建て、交流してきた歴史を持つ。

ネオ・サミット茅ヶ崎が建てられた場所は、元々は地元で「タヌキが出る森」と噂された別荘地。建設に際しては「共存」をテーマに、建物の影を最小限に抑え、建物外壁と道路との間に幅広い緑地帯を設けたり、元々茂っていたモチノキを玄関前に移設したりするなどの工夫を凝らした。

こうして出来た施設は、近所の小学生が「ここに住みたい」と言うほど、茅ヶ崎の風景によく溶け込んだものに。入居者は屋上からの眺めを楽しんだり、歩いて数分の海岸を散歩したりと、茅ヶ崎での生活を楽しんでいる。

ネオ・サミット茅ヶ崎の屋上から見える風景。正面に相模湾が開け、三浦半島や伊豆半島、遠くに房総半島を望み、背後には丹沢山系や富士山が控える絶好のロケーションだ

ネオ・サミット茅ヶ崎ロビー。クラシックな邸宅のような佇まいは、温暖で風光明媚な別荘地としての歴史を育む茅ヶ崎にふさわしい格式を備える

先見の明「シルバーエイジ研究所」

大和ハウス工業がシルバー事業に関わる歴史は長い。1986年、大和ハウスグループ初となる有料老人ホーム「ネオ・サミット湯河原」が静岡・熱海にオープン。そして1989年、「日本社会は将来、高齢化の時代を迎える」と予見した樋口武男・現会長の提唱で「シルバーエイジ研究所」が設立。介護の問題を「高齢者の暮らしや生活の場の問題」と捉え、高齢化社会にふさわしい住まいのあり方や、生活をサポートする事業の在り方を研究してきた。

現在までに大和ハウス工業が手掛けた高齢者施設は5千件にも達する。ネオ・サミット茅ヶ崎にも盛り込まれた「地域との共生」という理念は、シルバーエイジ研究所での成果や四半世紀にもわたるシルバー事業の運営を通じて培われているものだ。

ネオ・サミット茅ヶ崎 スタッフインタビュー

環境・防災・地域への配慮を高い水準で備えるネオ・サミット茅ヶ崎。スタッフは同施設で日々働きながら何を感じているのかを、尋ねてみた。

入居者のくつろぐ様子がやりがいに
ネオ・サミット茅ヶ崎ケアレジデンス 入居相談室
シニアライフアドバイザー
天野寛之さん

私の所属は入居相談室です。ネオ・サミット茅ヶ崎への入居を検討している方の見学案内や入居された後の生活面で不安な事など、様々なご相談を承っております。
入居者の方にとっての当館の魅力は、ハード面では、例えば野菜工場で栽培された無農薬野菜を食べられることや、充実したリハビリ設備などが好評です。また、防災設備は災害が発生しなければ使うことはありませんが、「ここに住むこと」への安心感の寄与に貢献しています。
また、高齢者施設はとかく閉鎖的というイメージを持たれてしまいがちですが、当館は茅ヶ崎という温暖で自然に恵まれた環境に立地していますので、外出を楽しむ入居者の方も多いですね。そうした日々の暮らしの中で、入居者どうしの交流も生まれています。これらはソフト面での魅力と言えるのではないでしょうか。
入居される方々は当初こそ環境の変化に戸惑いも感じられるようですが、ここでの生活になじむにしたがってそうした不安が和らいで笑顔が増えていく様子が見られることは、私にとってのやりがいになっています。入居者のみなさんからいただく感謝の言葉は「仕事の励み」です。

食堂ホールは入居者のコミュニティ
ネオ・サミット茅ヶ崎 総務課
課長代理
久澤こなみさん

私の仕事は、入居者のみなさんとの日々のコミュニケーションを図ることです。入居者のニーズを汲み取ってサービスに反映させることは、当館での生活が少しでも快適でありますよう、重要な役割を担っているものと考えています。
さきほど天野さんが「入居者どうしの交流が生まれている」と話しましたが、入居されている方々が朝昼晩と一堂に会して食事を楽しむことができる当館の食堂ホールは、そうした交流を育む「入居者のコミュニティ」として機能しています。
高齢者の方々は自宅で生活していると、社会との接点も減り、ともすれば孤立しがちです。人との触れ合いやつながりを通して、入居者のみなさんに生きがいを実感できる機会を提供することが、当館の魅力であり価値であると考えています。
入居する方々にとって高齢者施設とは「終の棲家(すみか)」。充実した第二・第三の人生を過ごしていただくためのニーズを把握して、みなさんにお返ししていきたいですね。また、今後はイベントの開催などを通して、地域社会との交流も深めていければと思います。

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