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コラム No.27-75

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第1回 DXがウェルビーイングな暮らしをつくる株式会社大塚商会 営業本部 トータルソリューショングループ TSM課 吉見 美智子 × 株式会社フレームワークス 代表取締役社長 秋葉 淳一

公開日:2022/07/28

働きやすさは自分が好きでいられる環境から

秋葉:吉見さんは、大塚商会のトータルソリューショングループTSM課という部署に所属されていますが、こちらはどのようなお仕事をされている部署ですか。

吉見:TSM課の活動の基本は3つ「お客様の関係の強化」「人材育成」「新規ビジネス」がミッションです。大塚商会の営業の評価制度は実績を上げた分だけ評価されるというポイント制で、良く言えばクリアだったのですが、そういった数字に囚われるのではなく、“自ら考え行動する”事が重要と考える部署で、ゴールは自分たちが作り上げる為メンバーは、常にトライしながら進めてきました。最終的には新たな評価制度を検討する足掛かりにスタート。メンバーは当時の各トップセールスの方々を少数精鋭で集めて、TSM課がつくられました。
私は、TSM課が創立されて3年経った頃、新人で配属されてからずっとTSM課でしたが、途中、夫の仕事の関係で4年ほど会社を離れました。その後、TSM課で新規ビジネスとしてロボットとメディア戦略を立ち上げることになり、もう一度戻ってきました。

秋葉:評価制度を変えようとして、トップセールスの人たちを集めたのは面白いですね。言い方を変えると、おそらくそれまでの評価制度で評価されてきた人たちです。数字が結果だととらえるとすると、お客様とのリレーションをきちんと築いて、そのための行動ができていることが前提です。単に数字の話ではなく、そのような人たちを集めて、その人たちの行動特性のようなものから新しい評価制度を考える、ということでしょうか。

吉見:モデルケースにしていくということではないでしょうか。TSM課ができた頃は会社の考え方が大きく変わった時期だったと思います。大塚商会の創業理念として、社員の幸せや社員の家族の幸せがあり、ミッションステートメントには、従業員の成長や自己実現を支援する企業グループとなるとあります。過去のポイント制度もクリアで分かりやすい制度ですが、それ以外に、社員の幸せ、自己実現の評価は何なのか、そういったことも検討したのではないかと新人ながらに思いました。大塚裕司社長は入社式で「自分を好きであってくれ」という話を必ずするのですが、それは社長の考えだと思っています。

秋葉:なるほど、会社のミッションにより近い姿を実践されようとされたのですね。

吉見:大塚商会では「お客様と共に成長するIT企業でありたい」ということを常に意識して行動し、入社以来マルチベンダー・マルチフィールドを心がけてきました。当社にはパートナー企業が約2400社あり、年間お取引のあるお客様約28万7000社のうち約80%が年商10億円以下の中小企業です。

秋葉:日本の企業の構造からすると中小企業が圧倒的に多いわけですから、中小企業に取引先として選ばれていることは意義のあることですよね。有名な企業は目立ちますが、中小企業と取り引きするほうが世の中の流れがよく分かると思います。

吉見:サプライからIT、サポートまで、全部一緒にワンストップでできることが大塚商会の強みで、最近では業務コンサルティングも手掛けています。その中で大事にしているのが「お客様に寄り添う」ことです。秋葉社長がおっしゃるように、日本のほとんどの企業が中小企業です。本当に小規模から大規模まで問い合わせがありますから、「お客様それぞれの規模で求めているものは何だろう」ということを強く体感しています。
新型コロナウイルス感染症が拡がりだした頃は大塚商会に復職していましたが、その際リモートビュー(社内PC遠隔操作型のリモートサービス)という、テレワークで会社のパソコンと繋ぐ製品の体験版の、注文が急増し、とても手作業では間に合わず、急いで担当部署がRPA(Robotic Process Automation:AIなどを活用した自動化システム)を組んだほどです。そのようなリアルを会社の規模に関係なく感じるのは、やはり大きなメリットだと思っています。

秋葉:先ほどおっしゃった、「社員の幸せや社員の家族の幸せ」という考え方は、DXにも繋がる話だと思います。現在、労働力不足が顕在化していますが、実際には20年前からそうなることが分かっていました。それに対して会社としてどうしていくかを考えると、やはり「社員を大事にする」ということになります。社員が働きやすいというのは、職場だけではなく、家に帰って安らかな状態にいられるかどうかでもあります。そう考えると、「自分が好きでいられる」ということは、家族に対しても貢献できているということです。家族に迷惑をかけていないから仕事も一生懸命できるし、そういう自分を好きになれる。当然、お客様に対しての貢献度も上がるでしょうし、すごく良い考え方ですね。

吉見:TSM課では、ESがCSに繋がると考えて、ES研修も受けます。日本経営品質賞の「認定セルフアセッサー」という資格(評価・査定を行うための資格)を取得する人も多くいます。

秋葉:やはり働きやすいですか。社員としても、女性としても、ママとしても。

吉見:いろいろ配慮していただいていますし、会社としてできる限りの努力をしていただいていると思います。新規ビジネスはどうしても属人的になりがちですが、他の時間で融通を利かせていただいています。それに、「グループとして会社のミッションを預かっている」という意識を皆が持っていて、会社が考えていることを実現したいと考えています。社長が先ほどのミッションステートメントを大事にされているので、働きやすいです。

DXが生産性を上げ、ウェルビーイングな暮らしをつくる

吉見:去年、大塚商会では新しく「横浜物流センター」を建てました。オートストア(省スペース化と省人化を実現する最新鋭のロボットストレージシステム)の導入数が国内最大規模のセンターで、先日、私もお客様と一緒に行ってきました。
そこでは、物流の今のスケジュール感や工程感をモーションボードというサービスで行っています。モーションボードは、さまざまなデータをリアルタイムに反映して可視化できるので、BI(Business Intelligence:企業が蓄積しているさまざまなデータに基づいて意思決定すること)としても活用できるのですが、お客様からすると「これは何ですか?」という話になったりします。
こうしたシステムの活用についても、お客様によっては新しいと感じられる方もいらっしゃるのだと思いました。

秋葉:実は、データが可視化され、現場で状況が見えただけで、生産性が大きく変わります。

吉見:私も、現在の状況が分かれば、あとどれくらいで終わるかが分かりますので、モチベーションがだいぶ変わると思いました。

秋葉:特に物流センターは高い階層になっていたり、ワンフロアが広かったりするので、作業者にとって、モニターに出ているものと自分の目の前のものは少し違います。さらに、マネジメントしている人が全体として十分に把握できているかというと、そうではありません。どこがスムーズでどこが滞っているかが分かるだけでも、お互いに人の融通がされたりして、センター全体のパフォーマンスが上がります。見えるだけで本当に変わるのです。
今、社員ではない人の比率が増えてきていますので、情報共有の意味において、可視化はさらに重要になっていくと思います。

吉見:弊社の物流センターは、外国人の方も多く働いているので、可視化したほうが圧倒的に分かりやすいですよね。今どこが滞っているのかすぐ分かりますし、コミュニケーションもスムーズです。

秋葉:20年以上前、大手SPA企業が中国に縫製工場を展開していたとき、私も一緒に回っていました。縫製は、縫うところで人が変わっていきます。例えば、私が襟を縫う、吉見さんが袖を縫うといった感じです。縫う工程を1組にして中国語で「シャカン」と言うのですが、それが何チームもあって、シャカンごとにどれだけ終わったのか数字がすべて出されます。ここで競争が生まれます。評価も簡単ですから、成績の良いシャカンのチームは報酬をたくさんもらえます。一番分かりやすいですよね。検品によって、品質の悪いものははじき、1日当たり何個やって何個が品質良かったか、全部数値化します。たったそれだけで生産性と品質が上がっていくのです。今はデータが取れて、他のフロアを見る仕組みもあるので、それを活用しない手はありません。
ただ、DXという点では、今の話は生産性を上げるだけです。本来は、「それが分かったとき、社員に対して何ができるか」というところまでいかないと、DXではないと思うのです。
たとえば、お客様から人が働きやすい環境をつくりたい、あるいは、どうしたら離職率を下げられるかといった問い合わせはきますか。

吉見:おっしゃっるように、DXはビッグデータを活用してビジネスをより円滑にするものです。本当の意味はそういったところだと思うのですが、個人的には、DXはウェルビーイングだと感じています。離職率についてのご相談はそれほど多くはありませんが、今、各メーカーが顔認証やAIを使った商品を次々と出していて、朝に撮った表情や声で心の状態を見るようなものもあります。しかし、導入が進んでいるかというと、弊社のお客様でもそれほど多くないですね。
また最近は、新型コロナウイルス感染拡大で圧倒的にテレワーク関連のビジネスが増えて、商材として売り上げも伸びました。例えば、パソコンをリモートで繋いだり、スマートフォンを内線化したりするような商品があります。
大塚商会のコンタクトセンターは非常に高い評価をいただいていて、2020年には株式会社J.D. パワー ジャパンが行った法人向けテクニカルサポートコールセンター満足度調査において、2部門で顧客満足度1位を頂いています。最初にスマートフォンを内線化して、皆が在宅で対応できるようにしました。問題はそれがどうウェルビーイングになるのかというところです。これは子どもがいる家族に限定されますが、同期の人は、子どもの選択肢が増えたと言っていました。習い事はどうしても土日でなければならなかったのが、平日に広げられる可能性ができたということでした。
大塚商会のDXのCMも、データ活用というより、どちらかというとウェルビーイングを意識していると思います。子どもと一緒に料理をしながら仕事ができる、家族との時間ができるなど、そういったところは意識していますし、お客様にも感じてほしいですね。DXの本当の意味とは少し違いますが、働きながら家族の時間を充実させることが、最終的に生活が潤うというところに繋がったと感じています。

ロボットを導入して初めて分かることもある

秋葉:実際に、DXに関してはどのような問合せが多いのですか。

吉見:最近は、「受付でロボットを使えないか」というご相談が多いです。「受付にロボットを置いて、人員を別の業務に割り当てたい」というお客様もいれば、「DX感を出したいので、とりあえずロボットを受付に置きたい」というお客様もいらっしゃいます。

秋葉:ある会社が上場を目指してバリューアップを図ろうとしたとき、会社業績といった話とは別に、「デジタルの香りをさせたい」という話がありました。今の受付にロボットを置く話と同じですよね。DXはバズワードなので、捉え方や解釈の仕方、それに対する取り組み方は企業ごとにあっていいと思いますが、それでも「何かを変えよう」という思いがあってするべきではないでしょうか。「とりあえずデジタルの香りをさせたい」というのは、レベル感が違うように思うのですが。

吉見:目的が必要なのは、その通りだと思います。ただし、現在人手がどんどん少なくなっています。当社も元々それを分かっていて、ロボットの取り扱いを大きくし始めました。それまでは、大手企業がまず研究用に導入したり、大学の研究室がひとまず使ってみたりという感じだったのが、コロナ禍になって、年商10億円以下の中小企業のお客様から「ロボットを使いたい」と、問い合わせも導入も増えました。今までは大手企業ばかりだったのが、中小企業の導入が進み、社内ではなくコンシューマ向けに使ってみたいというご要望が増えたのです。
ですから、最初は「デジタルの香り」でもいいので、それが受付だったとしても「ロボットを使って何かができる」という可能性を広げるきっかけになっていければいいのではないかと思います。

秋葉:ロボットが特殊なものから身近なものになってきた瞬間に、活用の仕方がより広がる可能性が出てくる、今はそのポイントにいるという感じでしょうか。

吉見:それは感じますね。TSM課内の私の担当は、ロボットの立ち上げとメディア戦略を大きな柱にしています。中でもtemiは、営業経由ではなく、ウェブの問い合わせから直接入ってくるお客様が約8割なので、注目度が上がっている商品です。直接データを取得するものではありませんし、インフラとまでは言いませんが、一つのツールになってきたと感じています。
※AIアシスタンス機能を持った自律走行するロボット。大塚商会と大和ハウス工業、モノプラスはtemiのインテグレーション・パートナーで、temiを活用したサービスの開発や販路拡大にともに取り組んでいる。

秋葉:temiは身近になってほしいですね。パーソナルロボットが身近になったとき、temiなのか別のロボットなのかという選択肢は改めてあっていいと思いますが、ロボットが身近になることで、ロボットや人工知能に任せていいこととそうでないことの区別がはっきりしてきます。

吉見:ロボットがなぜ本来のDXになるのか、最初は分かりませんでした。秋葉さんのチームと一緒にやらせていただいた、神奈川県の湘南鎌倉総合病院の検証は今も継続していて、temiを受付に置くことになりました。ところが、来院される患者さんはご年配も多いので、ロボットを触るのに抵抗があるのか、見るけどなかなか触らないのです。一方で、看護師さんには対応可能な範囲での的確なご意見をいただきました。例えば、検査についての説明業務は、ロボットであれば、決まった内容をどんな状況下においても漏れがなく説明することができる、「言った言わない」も発生しません。あとは、運搬のようなシンプルな業務はtemiにやらせたほうがいいというご意見でした。temiは動けるロボットで病室まで行くので、患者さんの負荷がありません。また、temiのような少しコミカルなものがあったほうが、患者さんやそのご家族の気持ちも明るくなりますし、看護師さんの負荷も減ります。新たなデジタルツールを使って世の中が明るくなって、これも一つのDXだと思いました。これはやらないと分からなかったロボットの可能性です。
※神奈川県の「令和3年度新型コロナウイルス感染症対策ロボット実装事業」において、入退院説明業務の補助ロボットとしてtemiが採択された。この実施施設として湘南鎌倉総合病院が選定されている。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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