秋葉淳一のトークセッション 第1回 付加価値ある物流施設の開発を続けていく大和ハウス工業 執行役員 建築事業本部長 更科雅俊 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一
公開日:2024/07/31
付加価値のある物流施設を
秋葉:大和ハウス工業の2023年度の決算が公表されました。実績で売上高5兆2,029億円を達成。中でも事業施設関連が1兆2944億円と、物流などの事業施設が牽引し好調に推移しています。しかし、土地の仕入れの課題や建築コストの問題、そして労働者不足の2024年問題など、多くの問題が山積していると感じています。
図:大和ハウス工業 FY2023セグメント別実績(単位:億円)
更科:事業施設関連を率いる建築事業本部の柱は間違いなく物流施設です。一方で、おっしゃるとおり、土地の仕入れと建設コスト、働き手が不足しているなど大きな問題もあります。苦しい状況なのは他社も同じで、土地を購入しても開発できず、損切りして売る会社も出ていると聞きます。これからは優勝劣敗の流れが明らかになってくると思っています。大和ハウス工業は物流施設開発を中心に据えながら、変わらず積極的に事業を進めています。これまでは、物流施設においても多くの企業の参入が目立ちましたが、今後は必然的に過当競争が薄らいでいくのではないでしょうか。
秋葉:多くの企業の参入もひととおり落ち着き、荷主企業と信頼関係を築き、施設開発を継続的に進められる企業はそれほど多くなく、残る企業は限られていくような流れになってきていると。
更科:今年から来年にかけてそのような動きが出てくるでしょうね。去年あたりからその差は出てきています。入札に参加する企業も減少している印象です。今まで多い時には10社あったのが、今は2、3社程度となることも多く、中には、入札に参加する企業がなかったり、入札が流れてしまったりすることもあります。その状況の中でも、私たちが一定のペースで開発を進めていくことで、ある程度の実績は積めるのではないかと思います。
秋葉:建築コストは今でも上昇している状況だと思いますが、下がる要素がありませんよね。
更科:建築コスト問題に対しても、さまざまな対策を進めています。施設を作らない選択はありませんので、やはりある程度価格転嫁をしていかないといけません。違う価値をつけることで価格転嫁をする、そういう動きになっていくと思います。
秋葉:結局、商品の売価の何%を物流に関する費用として見ることができるかという話なので、商品の値段が上がれば追いついてくるのでしょうね。そうすると、価値の高い物流施設に商品を置くことになります。では、価値が高い物流施設とは何でしょうか。その尺度にはこれまでとは異なるポイントがありそうです。
更科:これまでの物流施設の持つ基本的な機能や価値に加えて、チルド化や温度帯を変えることも一つです。すでに、マルチテナント型倉庫の1階が全部冷蔵庫になっている例も少し前からあり、現在でも需要は旺盛です。まだ大きなマーケットになっている状態ではありませんが、冷凍や冷蔵に対応できる仕様にしておくなど、今後は温度管理を視野に入れた開発をしていきたいと考えています。
自動倉庫化も付加価値の一つですが、施設内の自動化をデベロッパーとして提供することに関しては、検討すべきことだと考えています。マテハンの使い方も各社違っており、「標準的」で「汎用性の高いもの」をつくるところまでいっていない状態だと思います。償却やメンテナンスの問題もあり、デベロッパー側がすべて提供することに関しては、時期尚早ではないでしょうか。
秋葉:荷主が1社であれば一緒に開発することはありそうですが、マルチでやる場合は必ずリスクを負うことになるでしょうね。ほかにはいかがですか。
更科:リブネス事業も大和ハウス工業の強みの一つです。大和ハウス工業は2002年頃にいち早く物流センターの開発を開始し、弊社保有の倉庫だけでなくお客様から請け負っているもの、REITに入れているものも含め棟数を拡大してきました。リブネス事業では、20年経って再び市場に出てきた物件を買い取り、リニューアルして、もう一度市場に卸すスキームです。それによりゼネコンが不要になり、確認申請、設計期間、施工も大幅に短縮できるというメリットがあります。
秋葉:面白いですね。例えば、紙を商品として扱っていた会社においては、紙全体の需要が減少するなか、物流のスペースも減少していると思われます。紙を保管、流通する物流施設は高い耐荷重性能を持っています。
更科:そうです。物流倉庫は非常に強固ですから、さまざまな用途を検討することが可能です。倉庫をオフィスに変えることはできてもオフィスを倉庫に変えるのは難しいということです。つまり、強固な紙の倉庫を普通の倉庫に変えるのは簡単なのです。物流センターの躯体を生かして違う用途に変えたりリバイスしたりする。冷蔵庫にする場合もあるでしょうし、ZEB化して省エネルギーな建物に変えることもあるでしょう。大和ハウス工業はノウハウと過去の開発実績の豊富なストックがあり、もう一度頼ってくださるお客様がいらっしゃいます。これは他社にはない大きな強みです。
秋葉:2024年問題と言われる労働者不足に関することですが、大和ハウス工業の職人さんからの声として、現場の管理がしっかりしていると、評判がとてもいいと聞いています。職人さんの数も足りない中で、大和ハウスの現場だったら仕事をしたいという人も出てきていると聞きました。
更科:手前味噌ですが、大和ハウス工業は今まで数多くのゼネコンに発注してきましたので、あらゆるゼネコンを見てきました。自惚れてはいけませんが、そこのレベルの高さは自信を持っていいところだと自負しています。その分職人さんからの期待も大きく、その仕事をもっとアピールできないかと言われることもあります。職人は魅力ある仕事だということをもっと世の中に発信していきたいですね。
秋葉:私の父親は土木系の仕事をしていたので、「この橋は俺が作った」などとよく言っていました。子どもでも1人で作れるわけがないと分かるのですが、自分が携わった仕事をそんなふうに家族に言えるのは素敵なことです。
更科:地図に残る仕事に憧れて建築業界を目指す方は多いですね。これはやはり「もの」があることの魅力です。しかも長い期間残ります。ものが目に見えて、もっともいろいろな人が関わる仕事だと思っています。
秋葉:働きやすさも含めて大和ハウス工業を選んでいただけると嬉しいですね。
バース予約ならぬ現場予約の実証実験を実施
秋葉:新しい技術の話として、自動運転やスワップボディ(パワートレインやシャシーから、簡単に分離できるボディのこと)やダブル連結のトラックなどがあります。これらのトラックを活用するとなると、どのように入れるかなど、敷地・建物を合わせて施設側で考えていかなければなりません。これについてはいかがですか。
更科:全国を網羅できるように各所に営業所を配置し、全国で開発をしているのが大和ハウス工業の強みです。中継になるのかストックポイント(配送のための在庫を保管しておく中継基地)になるのかはともかく、拠点戦略として使ってもらいやすいと思っています。それをつなぐトラック輸送については、まだ建物側では十分に対応できていないのですが、まずはゾーンを決めて動線をつくったり、あるいはそれが建物内であれば、より広いバースを取るような施設開発をしたりといったこともこれからしていかなければなりません。
秋葉:スワップボディにはスペースが必要です。そうなると、スワップボディを走らせている会社は賃料に納得できても、そうではない会社をどうするかという問題が出てきます。私はバースを広げるのはなかなか難しいと思っているので、バースとは切り離して、スワップボディを置くエリアを用意するほうが現実的のような気がします。今のスワップボディは脱着にあまりにも時間がかかるので、スワップボディの仕様を変えないとだめだとも思っています。すでにその話は、国に対しても提案していますので、脱着がもっと簡単にできるようになると急速に普及すると思います。
自動運転は高速道路の区域に限定されていて、本当の意味での高速道路直結でないと人間が運転席に乗り込まないといけないので、その結合をどうしていくかという問題もあります。
更科:自動運転や連結もトラック側がどう変わるかですね。
秋葉:世間では2024年問題が大きく取り上げられていますが、まだ、本当の意味で「運べない」という状況にはなっていないですよね。運賃改定の交渉が行われており、全体で約15%値上げされてきていますが、正直、この上げ幅は大きいものではないと思っています。トラックドライバーの平均年収は全産業の平均より約2割少なく、労働時間は約2割多い。そうなると、運賃が約1.5割しか上がっていないのでまだ合いません。
一方で、運送会社の元請責任が明確になってきています。そういう意味では、元請の会社がどういう動きをするのか、最近ではいろいろな会社のM&Aのニュースも出てきているのでその辺がどう動くのか注目しています。
更科:物流センター以外でも同じことが起きています。大和ハウス工業の工事現場では大和物流が物を持ってくるわけですが、発注者である大和ハウス工業としても解決すべき問題として捉えています。それで今はHacobuのシステムを入れて、バース予約ならぬ現場予約の実証実験を行っています。
秋葉:今まで経済産業省は単に「荷主」という言い方をしていたのが、昨年あたりから「着荷主」と「発荷主」として言い方を明確に分けています。これが何を意味しているかというと、着荷主の要求通りに発荷主が出しているということです。要するに、どうするか決めるのは着荷主側なのです。今までは何となく出し側にばかり注目していたのをあえて分けるようになった。今の工事現場の話もまさにそうですよね。
更科:まさに私たちも気付かされました。どうしてもDPL(ダイワハウス プロジェクト ロジスティクス)にばかり目が行きがちだったのが、荷物が着く場所のことを考えなければなりません。
本当は適切なものが適切な量、現場に入るのが一番いいのでしょうけれど、現実的にはなかなかできていません。
秋葉:建築現場の進捗に合わせて、それこそジャストインタイムでやらなければならない。
更科:もっと言うと、市街地の戸建住宅や集合住宅のような狭いところでこそやるべきです。大型建築の現場は広い土地で余裕があるので資材置き場に困ることはありませんが、大型建築現場ではない建設現場の場合、より資材の配送や置場に関し仕組みやシステムを構築する必要があると思います。
秋葉:本当にそうですね。物流センターだけの問題ではありません。
エリアや使う人を意識したマルチをつくる
更科:建築事業本部の柱が物流であることは間違いありませんが、今、国内外の製造業や、特に地方では半導体を中心に引き合いが増えています。半導体そのものだけでなく、機械をつくる部品の工場、半導体ウエハを削る研磨剤の工場、倉庫など、裾野が広いのが特徴です。今は工場の国内回帰の波が来ていて、それもあって工事関係、設備系の人が不足している状況なのだと思います。
基本はマルチで、半導体工場や自動車部品工場の他にもメーカー物流向けの倉庫が増えています。そうすると、今までの高床式で梁下有効高5.5mの倉庫ではなく、低床式で階高が高い倉庫のほうがいい。そのようにエリアや使う人を意識したマルチをつくるのも大事なことだと思います。
秋葉:ある程度絞った市場の中でのマルチということですね。
更科:そうですね。高床式で梁下有効高5.5mこそがマルチと思いがちですが、さまざまなお客様を意識したマルチをエリアごとに広げていきたいと考えています。今までは川下の物流が多かったのが、国内回帰が進んだことで、エリアによっては川上のメーカー系など今までお付き合いがなかったお客様が増えてきています。ただ首都圏はやはり川下が圧倒的に多いのですが。
秋葉:消費地であって生産地ではないのでどうしてもそうなりますよね。地方自治体は生産地として一生懸命誘致をしていますし、消費地と生産地という整理がある程度できます。
更科:製造業の請負は建築事業本部の柱の一つで、エリアのビッグネームの企業さんとのお付き合いも増えています。大和ハウス工業が皆さまの目に見えるようにやってきたことが評価いただけていると思っています。多くの大型物流施設を開発、保有しているので、認知度が高くなり、今までと違う評価、つながりが出てきています。
秋葉:目に見えてやっているのは非常に大きいですね。担当者の頭の中に大和ハウスという名前がそもそも浮かばなかったら提案依頼も入札依頼も来ません。