秋葉淳一のトークセッション 第3回 社会全体を良くする仕組みを考えていくべきIoTNEWS 代表 小泉 耕二 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一
公開日:2023/09/29
概念の話と物流の実態の話は違う。現場のあるIoTはそこが面白味
秋葉:ドイツのハノーバーメッセに行かれたとお聞きしましたが、注目すべきものはありましたか。
小泉:イメージできるものはすでにだいたい出ているので、新しいものはあまりなかったと思います。今回エポックメーキングだったのもChatGPTの業務への活用なので、今までやってきたIoT、生産性向上、生産技術の自動化等のレベルが上がっているということで、それ以上でも以下でもないのだと思います。
また、ABBロボティクスのようなロボット産業系の会社はあまり出展してないのに、AWS、マイクロソフト、Googleが大きなブースを出していたことです。IT系の会社が多くなって、製造業をIT化しているような雰囲気を感じました。
そこでIT系の方と話したのですが、これまでIT系の人たちが言うクラウド目線の製造現場改革の話と、OT系(Operational Technology:製造業や社会インフラで利用される、工場設備・機器の制御・運用技術)の現場の人たちが見ているクラウドを活用した改革の話は、折り合ってこないように感じました。それぞれ自分たちのソリューションがあって、それらをつなげるような話をしているので、一緒にすることで何か新しいことが生まれそうな感じはするのですが、なかなかそうはなりません。
秋葉:それはなぜでしょうか。
小泉:例えば総合的にやっている大手の製造業向けメーカーは、エネルギー、家電、生産製品までいろいろなものがあります。そういう人たちから見れば、IT系の会社には負けたくありませんから、「メーカーの製品上のアプリケーションプレイヤーは自分たちがやるので、ITベンダーがやる必要はない」と考えるわけです。AWSやマイクロソフトがクラウドサービスしかやっていない時にはそれで折り合っていたのですが、彼らがいろいろなことをやり始めて、いろいろな企業と組んで、ITベンダー側が持っているクラウドサービスが充実していくと、競合関係になり得るわけです。そうなると、本来はすべての生産機械がつながるべきなのに、例えば「弊社のPLC※であれば簡単につながるが、他は分かりません」といったことが意図的に起きてくる可能性があります。
- ※「Programmable Logic Controller(プログラマブルロジックコントローラ):プログラム可能な論理回路の制御装置」
秋葉:日本でも昔はありましたよね。
小泉:ローカルルールで争っていた頃ですね。その後ローカルルールではダメだということで、グローバルスタンダードな方式が登場しました。今は、その方式に従うのかそうでないのか決まっていないだけの状況です。共創領域と競合領域があるなかで、どこを一緒に創って、どこで争うのか。それを考えないといけないことは皆分かっているので、何でもオープンスタンダードに乗っかればいいとは思っていません。もちろん考慮はしているし、なるべく合わせようとはしています。とはいえ、競合しているところに関しては、あまりにも従いすぎるとまずいという話がどこからか出てくるわけです。
秋葉:物流に限らず、マテハン、ロボットのベンダーもおそらく一緒で、通信のところは標準化して合わせて、それぞれの動きや何かのところで差異化してほしいですね。
小泉:この手の話は、ソフトウェアの世界が先行していて、オープンソースのLinuxが世の中に普及しました。現場のある領域でも同じことが起きる可能性があります。どこかの会社のオリジナルなオペレーションシステムに全部乗っかるのではなくて、非常にオープンな技術がスタンダードとなり、どこの誰がやっているか分からないようなものに乗っかるというようなことです。
秋葉:それは可能性がある気がしますね。インターフェースの標準化でも、仕様を私たちが決めていく時、例えば「このソースコードを使ってくれたら最初からできる」ということをオープンに出していこうかと思っています。
小泉:誰かがそうやって踏み込み始めると、そっちがいいという人が一定数出てきますよね。
秋葉:それを誰かがメンテナンスしていく、ということでもいいのではないかと思っています。
小泉:そうですね。日本の大手メーカーでもすでに、北米や中国に新設工場を建てる時、スタンダードな技術で進めている企業があります。日本は既にローカルルールで組み上がったものが多いので、それを全面的に採用することはなかなかできません。新しいことは新しい工場でないとできなかったりします。設備投資は、金額にしても償却期間にしてもパソコンとはわけが違います。そう簡単には変わらないと思いますが、じわりじわりと変わっていく中で、すごく良いものがあればシステムを乗せ替えるかもしれないですね。
秋葉:乗っていく企業が増えるスピードが速くなる可能性はありますか。
小泉:可能性はありますね。競争に負けてしまったら替えるしかないので、負けるようなことが起きるかどうかだと思います。そこが、私がIoTの好きなところです。IoTはITと違って現場があります。ITの人たちは現場がないので好きなことを言えるし、天才が3人くらいいれば好きなものをつくってしまうこともできるでしょう。しかし、IoTはそうはいきません。現場がある世界でやっていると、そこが逆に面白味になります。
秋葉:現場があるとゼロイチにはなりません。まさに物流がそうです。フィジカルインターネットもそうで、インターネットのようになるわけがない。概念の話と物流の実態の話は違いますから。
小泉:荷姿を揃えたり、品名を同じところにプリントしたり、そういうことはやったほうがいいに決まっているのだからやろうよ、という話ですね。しかし、全体をどうやって効率化するかはまた別の次元の話という気はします。
秋葉:やれることをやったうえで、物理的に違うものをいかにカテゴライズしていくかという話なので、全体の効率化と一緒にする話ではありません。
小泉:ただし、「できない」ということではないと思います。「できなくはないのだから、やろうとしてみようよ」という意気込みが皆にあるといいなと思っています。
秋葉:デジタルデータをまず管理する。これができていなければそもそも何もできないですからね。
国策としてのエコシステムが必要
秋葉:話は変わりますが、最近小泉さんに入ってきた情報で、ベンチャー系で面白そうな会社はありますか。
小泉:日本のベンチャー企業について言うと、インターネット系が特にそうなのですが、日本人同士で日本語をベースにしてやっている人たちがいます。しかし、インターネットはデータが圧倒的に有利です。インターネットによって何が起きたかというと、ボーダレス社会になったわけです。国という概念がなくなって、国境がなくなったのがインターネット。それに国が危機感を抱いて入ってきて、線を引こうとしたり、仮想通貨に税金をかけようとしたりしていますが、それらは全部後付けです。先にインターネットが世界に広がり、ボーダレスな社会になった。それをチャンスと見てサービスをつくった人たちが勝ち組になっています。このボーダレスな世界の中で、資金を持っている人が最も多い言語と通貨で商売しないと勝ち組にはなれません。なぜならデータが集まらないからです。すごく分かりやすい理由があるのに、日本のITベンチャーにはなぞに日本で一生懸命やっている企業が多く、どう考えても大きくなりませんよね。
現在は、アメリカでも、IT系ベンチャー企業が大して成功しないところまできています。イグジットプランとしてGoogleが買ったりしていた時期がありましたが、中くらいのサイズの会社があまり出てこなくなりました。つまり何が言いたいかというと、思いつくことはだいたい形になってしまったということです。久しぶりに生成系AIが出てきて、さまざまな既存のモノと組み合わせるような話も出てきていますが、少し前に話題になっていたWeb3などはほったらかしになっています。けっきょく投資家は儲かるところに行くので、儲からないと思ったら引いて終わりです。産業全体を育てようというマインドの投資家もあまりいないように感じます。
秋葉:ベンチャーではありませんが、パナソニックからVieureka、ソニー・コミュニケーションズ・ネットワークからMEEQ、三菱商事からガウシーなど、大企業の中で面白い芽が出てきた時にカーブアウトさせるという動きもあります。
小泉:これは面白いですよね。「それをどうやって広げていくか」という支援のエコシステムがあるともっといいのですが、なかなかないですね。
秋葉:広げていくためにも、私たちがそのメンバーをつなげていかないといけないですね。
小泉:本当は、ある程度のエコシステムを構築してから出てきたほうがいいと思います。元気がいいのは格好いいのですが、元気がいいだけでは産業界で活用されるのは難しいでしょう。コマツのスマートコンストラクションも有名になりましたし、影響力のあるソリューションだとは思いますが、まだ社会に根付いているエコシステムにはなっていないと思いますし、本当のプラットフォーム事業になるには、まだまだ時間がかかりそうです。
秋葉:すごいことをやっていますよね。
小泉:これを国策としてやるくらいでないとダメだと思います。リニアモーターカーも早く通したほうがいいし、ロケット産業ももっと後押しするべきです。
秋葉:物流業界もITをうまく活用し、エコシステムをつくりあげていきたいですね。画期的に変わらなくても、生成系AIを使えるところに使っていきたいし、使っていってほしいと思っています。そこの技術的な話や、使い道が分からない、コストといったハードルを下げることが、私たちの役割です。
小泉:生成系AIのことについていうと、ChatGPTの時にお話しした「プロンプト」は、日本語なのでプログラムを書くより簡単です。プロンプトを使える人が組織に1人いて、その人に教えてもらってプロンプトが打てるようにしておくと使いこなせますよ。やっているうちに、プロンプトの構文を覚えなくても、それこそAIが気を回してできるようになっていきます。今は過渡期で、今すぐ使えるかと言われると、厳しいですが、2年3年と成熟してくると状況もまったく変わってきます。いろいろな会社でやっているので、いろいろなこなれたものが出てくるでしょう。しかし、こういった利用は、単純で理解しやすいですが、生成系AIの産業利用としては、本丸ではないと思います。本丸は、企業の中にあるデータをうまく組み合わせたり、意味のある情報にしたり、予測に活用したりすることです。
くどいようですが、一番初めに申し上げたように、だからこそデータをあらかじめ整理、整備しておかないと、来るべき時に備えられません。けっきょく、「データ」がDXやサステナビリティの主役になるということを認識する。タグ付けや整理ができていて、人間が見やすければ、当然AIが使う時にもやりやすくなる。そこを目指さないといけないのではないかと思います。
皆で意識を統一し変化する
秋葉:まとめていただきありがとうございました。最後に、これからの物流についてひと言いただけますか。
小泉:人が減っていくことはもう変えられません。今経営をしている人たち、秋葉さんや私くらいの年の人たちは、人が少ない状態をイメージできていません。これから人口はますます減るという前提になった時に、荷物を運べないという問題があるにもかかわらず、人が少ない状態で売上を上げるのか、利益率を上げるのか、覚悟を決めないといけないと思います。
秋葉:売上目標を昨対で語っている時点でだめですよね。
小泉:例えば、人口が増大している国は世界にたくさんあって、今や80億人を超えました。売上がほしいからマーケットを移すという発想でいくのか。あるいは日本でやるのであれば、売上を諦めて利益をとるのか。そこをはっきりさせないといけません。たまたま今資金あるから違う業界に手を出す、IT産業をやってみようといった、にわか仕込みでやったところでうまくいかないと思います。まず足元で、自分たちのロジスティクスの中の役割をどうやったらより先鋭にしていけるかを考えるべきです。物流業は周りに関係者がたくさんいて、右と左の両方に必ずパートナーがいる業界です。どこに向かうのか皆で意識を統一しないと、変われるものも変わりません。
ですから、個別にデジタル機器を導入したところであまり意味がない。ICタグを導入すると言っても、ICタグの費用を誰が負担するのでしょうか。昔からあるこの問題も、「全体的に考えて、入れたほうがいい/入れなくていい」という話ではなく、「この商品にICタグを入れる」という話をするから、誰が負担するのかという話になるわけです。けっきょく製造業、物流、流通を全部やっている、規模の大きな会社だけがこれをできて、効率化され、コストダウンも可能となるわけです。本当は社会全体で効率を追求する必要があるのに、そこを行おうとする人はほとんどいません。
いろいろな事情があることはわかりますが、「どのような最適化の答えがあり得るのか」という頭の体操が必要です。皆で社会全体を良くする仕組みを考えていくべきです。
沖縄に住んでいると、Amazonで頼んでも2週間くらい届かないこともあります。これが本州でも起きますよ。今日頼んだら明日来ると皆思い込んでいますが、そのうち取りに行くようになるかもしれません。
秋葉:私は、「物流に関わる企業がこれからどうなりますか」という話と「日本の物流をどうしますか」という話は、分けて考えないといけないと思います。そこが混ざっているのがすごく気持ち悪いし、今のままだと2024年問題も解決しないと思っています。なぜなら、2024年問題というのは「企業の問題」ではなく、日本の「国の問題」です。小泉さんもおっしゃっていたように、海外を商売の中心にするといった瞬間、2024年問題は関係なくなります。国として、地域として2024年問題を始めなければいけないのに、物流企業で解決しようという話になっている時点で解決する気がないのだと思ってしまいます。
小泉:つながってなんぼなのに、間にいる人たちだけが頑張ってもだめですよ。つなげてこそ価値が出るのですから。
秋葉:今までもサプライチェーン全体で考えないとだめだと言ってきましたが、これからもそれを話し続けることが自分の役割だと思っています。小泉さんと一緒にいろいろな切り口でそういった話をしていきたいですね。ありがとうございました。