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コラム No.27-86

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第3回 自己変革を積み重ね、持続可能な物流の礎を築きたい三菱食品株式会社 常務執行役員 田村幸士 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一

公開日:2023/06/30

冷凍冷蔵の倉庫不足、人手不足の解決が急務

秋葉:今、食品では中食用と冷凍の比率が増えてきていると言われていますが、実体としてどうでしょうか。

田村:正確な比率は分かりませんが、加工食品と言われる常温で流れているものが3~4割、お弁当も含めたチルドの温度帯が3~4割、フローズンが2割ぐらいで、この先はフローズンが4割ぐらいになってくるのではないかと言われています。チルドだとどうしても賞味期限が短いため、食品廃棄の問題が出てくるので、フードロスの観点から、フローズン化していくでしょう。大きな流れで言うと、やはり冷凍は一つのキーワードです。物流でいうと、どのようにして冷凍物流を進めていくかがこれから大きな課題になると思います。

秋葉:しかし、冷蔵冷凍の倉庫はまったく足りていませんよね。

田村:足りないですね。常温は、大和ハウス工業さんを含めて、皆さんがマルチテナント型の上屋を投資してつくっていますが、冷蔵、冷凍倉庫はほとんど出ていません。冷凍冷蔵の物流業者は専業者が多いのは、投資の金額が大きく、使い方が一律ではないからだと思います。標準化しにくく専業者以外が入れない、参入障壁のある業界なので供給が追いつきません。三菱食品も自前の冷蔵倉庫は少なく、専業者に営業倉庫(他者の物品を預かって保管する目的の倉庫)をお願いしているのがメインです。参入障壁が高いのは、投資の回収に時間がかかる問題が大きいのだと思います。
これから冷蔵、冷凍のニーズは間違いなく増えるので、大和ハウス工業さんには冷凍冷蔵倉庫をぜひつくってほしいですね。

秋葉:明らかですよね。

田村:実際には倉庫が足りず、かなり古い倉庫でも使われています。物流業界は倉庫も不足していますが、ドライバーも足りません。ドライバー不足は、経済原則から言えば、市場メカニズムがきちんと機能すれば、いつかは賃料が上がって、給料が上がって、人が来るはずです。しかし、それまでにタイムラグがあるのと、構造的にそもそも労働人口が減っているという問題があって拍車がかかっています。本当はあまり手を加えなくても高収入のドライバーが出るはずなのですが。

秋葉:今物価が上がっていますが、給料は遅れてしか上がりません。日本人の食事にかけるお金は異常に安く、ランチ代の平均が1,000円を切っています。原材料費、燃料費が上がったから価格を上げるのは、私たちからすれば当たり前の話です。払う側からすると言いにくいのですが、いっそのこともっと価格を上げたらどうでしょうか。そうしないとお金が回っていかず、トラックドライバーの給料が上がるところまでいかない気がします。物流企業も同じで、運送、荷役をしている会社も含めて、委託してくれる荷主側が価値を感じてお金を払ってくれないと給料上がりません。
昨年末、公正取引委員会が価格転嫁の協議不十分として公表した13社の中に、大和物流と三菱食品さんも入っていました。

田村:反省すべきところはあると思っています。弊社も統合前の前身の時代からいろいろなノウハウを積み上げ、新しいこともやって、一世を風靡した時代がありました。20年ぐらい前はおそらく日本の物流の先端の一つだったと思います。一方で、企画設計はするけど、物流専門業者ではないので、基本的にオペレーションは任せるというスタイルでした。設計まではしますが、オペレーションをするのも、人を雇うのも、トラックを探すのも委託先の物流パートナーに任せていました。売上高、通過高ベースの料率決めが多いのは食品業界の特徴かもしれません。古い荷主の体質、これを変える必要があると思っています。

秋葉:これまでの慣習、文化から変えていく必要があるということですね。

田村:現場が一生懸命やってもトラックの積載率は約40%です。これを改善するには私たちが現場を可視化して、「トラックはこう運用しなさい」「このルーティングで行きなさい」「作業員はここを厚く、ここは薄くしなさい」「ここはロボット化しなさい」と、一歩入って自分たちが見て、あるべきリソースの配置と運営を指導していく。そこまで入っていかないと持続可能性は担保できないと思っています。
これまで「高い」「安い」しかなかったのを、そうではなくて、「なぜこれが上がっているのか」「なぜここが無駄なのか」を一緒に考えていく関係に変えなければいけません。我々の立ち位置も、荷主だからと威張っている時代ではなく、一緒に改善していく方向に変えなければ、状況の打破は厳しいでしょう。そのような我々自身の変革が必要です。公正取引委員会から指摘されたように、互いに相手のことを理解して、対話の機会を持ち、単に値段の話をするだけでなく、オペレーションの中身の話をしていく。そういうふうに自分たちを変えていきたいと思っています。

秋葉:ユニクロさんも物流オペレーションの構造を変えました。ユニクロさんはSPAなので、やると決めたらやりやすいというのはありますが、丸投げではだめだと、いち早く投資をしていきました。

田村:ここは難しいところで、物流機能はサードパーティにアウトソースするのがいいという経営の考え方もあるわけです。どこまで物流機能を内製化するのか、日本企業にとっては永遠の課題です。私も何が正解か分かりませんが、我々の場合は物流と商流がセットになっている業態なので、ここは自分たちが入っていく必要があると思っています。

秋葉:受託側の能力レベルが上がってくるか、荷主側が降りていくかみたいなところはありますね。トータルとしてきちんとしたロジスティクス機能をどうやって発揮するかなのだと思います。

縁あって入った物流業界の評価を上げ、人が集まる業界にしたい

秋葉:田村常務は海外経験も豊富ですが、物流関連企業のポジショニング、社会的地位に関しては、日本との違いを感じられたことはありますか。

田村:物流業界は今ここまで危機感を訴えられていますが、それでもまだ物流は「3Kでしょ」と言われがちな業界です。私が若い時にヨーロッパに駐在したとき、物流業者の社会的地位はとても高いものでした。それこそ海運は超エリートがいくところです。マースクライン、ハパックロイド、ネドロイド、P&Oなど、ヨーロッパの船会社は貴族的な業界でした。フォワーダーもそれなりに高く評価されていて、少なくとも下に見るようなことはまったくありません。ところが、日本に帰って扱いの悪さを目の当たりにして、物流全体の社会的な評価や地位を上げたいとずっと思ってきました。

秋葉:関われば関わるほどそう思いますよね。

田村:縁があってこの業界に入ったので、もう少しこの業界を評価してもらいたいし、最初の話に戻りますが、学生が入りたいと思う業界にしたいですね。

秋葉:私もいろいろなところでお話をさせてもらいますが、例えば、「30年後」という表現だとなかなか伝わりませんが、「あなたたちのお子さんが自分ぐらいの年になって、社会の中心になったとき、どういうふうにしておきたいですか」という話なのです。自分ごととして考えてもらう必要があります。田村常務がおっしゃる自己変革のように、今の話ではなくて、「そのために今何をするか」という、目的への持って行き方が物流の地位を上げるためにすごく重要だと思っています。与えられた中で仕事をするのではなく、変えていくマインドを今働いている人たちにも持ってもらわないといけません。

田村:業界としての発信がすごく大事です。現場に行けば行くほど、「自分たちはこんなもんだ」という変な諦め、変なこだわり、変なプライドがあって、逆に外の人が入りにくくしてしまっているところもあるので、変えていく必要があると思います。これは深い問題です。物流業界は十年一日の如くで、現場では同じことを汗かいてやっているのだろうと思われがちですが、実は大きなイノベーションが起きています。例えば、今海上コンテナは当たり前の存在ですが、初めて日本にコンテナ船が入ったのは1967年、昭和42年でした。私はもう生まれています。

秋葉:私も生まれています。

田村:我々が生まれてから初めてコンテナが日本に入ったわけです。それから半世紀が経ち、コンテナ以外の輸送手段が思いつかないぐらいになっています。バーコードが日本に広がったのも1980年代です。実はまだ40年なのに、今やバーコードがない物流は考えられません。このように、意外と物流でイノベーションが起きているのです。だから私たちも諦めてはいけないし、「こうなったらいいな」「これはしなければいけない」と思っていれば、いつかソリューションは出てくるものです。

秋葉:思っていないと絶対起こらないですし、思っている人が増えないとだめですね。

田村:これでいいや、私たちはこんなもんだと諦めてしまったらそこで終わりです。

秋葉:そういう意味で、今日のこの時間のような話をして、他でまた違う人たちと同じような会話をすることがすごく大事ですし、いろいろなところで発信したいと思います。私も10年後は現役ではないはずですから。

田村:我々の歳になると、次の世代に何を伝えていくのか、後継のための礎づくりになりますよね。

秋葉:三菱食品さんには今Hacobu(ハコブ)のソリューションをご利用いただいていますが、今後の取り組みで何かありますか。

田村:先ほど申し上げたように、まずはトラックの可視化をするために「MOVO fleet」を導入しはじめています。関東にはもう入れて、これからデータを溜めていく段階です。

秋葉:データがないとそもそも見えるものが何もないので、見える化はスタートしません。見えてきてどうするか、もっとこういうものが見たい、こういう見方をしたい、これを使って次の展開はこうしようという形になっていきます。

田村:Hacobuさんのようなスタートアップに私たちが提供できるのは、やはりPOC(Proof of Concept:概念実証)です。現場でいくらでも提供できます。他のスタートアップともお付き合いしていますが、三菱食品の現場、三菱食品のデータを使ってPOCをしてもらって、その結果出た成果物を私たちが使わせてもらう。このような循環にしたいと思っています。
スタートアップに対して、「私たちはこれをやりたいのだけど、何かアイデアない?技術ない?」と聞いて、提案をしてもらって、話し合いながらつくっていく。私たちはユーザーとしてメリットを得て、彼らはそれを商品にして外に売る。それでいいと思っています。三菱食品は世間からは古い体質の会社に見えるかもしれませんが、物流部隊にはそのような進取のDNAがあるはずです。そういうスタートアップとの付き合い方をするため、去年の4月に物流DX推進室をつくりました。

秋葉:大和ハウス工業も、2021年、建築事業本部の中に物流DX推進室をつくりました。田村常務が現役でバリバリやられているうちに私も頑張ります。業界全体を変えていただきたいと思っていますので、よろしくお願いします。余積シェアリングのお話もすごく楽しみです。

田村:余積の話も自分たちだけでやるのではなく、誰かと組むことが大事だと思っています。私は前々から、プラットフォーム型のビジネスを立ち上げようとするチームには「自分がスタートアップをやるつもりで、自分でお金を集めてきなさい」と言っています。シェアリングサービスなので、皆がやらないとプラットフォームになりません。プラットフォームで稼ごうと考えるのは間違いで、皆にどんどん入ってもらって少しずつリスクシェアしたほうがいい。使ってもらって、その上で何か商売を自分たちで考えるところが競争領域です。シェアリングのいわゆる物流のリソースを調達するところは、非競争領域だと思っています。それを使ってどう配置して、運用するかは競争領域で、それが「That’s logistics」です。

秋葉:Gaussy(ガウシー)の中村さんと会ったときに話したのは、「思いがあるから始めたこと」だということです。思いが共有できる仲間をどうやって増やしていくか。物流の中だけでなくいろいろな人と交流して自分の思いを周りに伝えていかないと、変わっていかないという話をしました。

田村:物流と言っても、違う商品群、違うモードをやってみると、視野が広がります。よく物流の専門家と言いますが、単に限られた分野での物流の専門家なだけで、家電物流の専門家であり、食品物流の専門家であって、本当の物流をすべて見通している人はおそらくいません。

秋葉:いないと思いますね。だからこそ、それぞれの専門部隊が情報を共有し、知恵を出し合う必要がありますね。物流業界の未来のために、今積み上げていかなければなりません。今日はありがとうございました。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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