社会とお客さまの声を聞き、
まちづくりに挑む
女性営業のリアルとは
営業職に就く女性の割合は、全産業を通じて2割程度と低い水準にあります。とりわけ、建設業では7.7%、つまり営業職13.5人に1人の割合となっており、女性営業は極めて貴重な存在です。(いずれも2020年、労働力基本調査 データから当社算出1)大和ハウス工業では、いち早く2006年から新卒採用における女性の積極採用や、働き続けられる職場づくりに向けた各種プログラムを推進し、現在までに、大和ハウス工業内の営業職における女性比率は10%を達成しています。
ダイアログ第2回は、女性営業の先駆けとして、新卒採用で流通店舗事業部営業課2に配属され、産休・育休を経ながら、現在も商業施設や事業施設の開発を一筋に手がける後藤潤子さんと、日本の働き方改革における立役者の一人である、横石崇さんをお迎えしました。女性営業という仕事のリアルを見つめながら、ワークスタイルの多様性が組織のカルチャーや仕事のプロセスにどのような影響をもたらすのか、そして、その先に見据えるお二人の未来像について語っていただきました。
- (1)「労働力調査 基本集計 全都道府県 全国 年次 表番号2-5-1」(2020年、総務省)、e-Stat政府統計の統計窓口 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003024266にて算出
- (2)大和ハウスグループにおける流通店舗営業とは、土地オーナーさまには立地に適した土地の有効活用を、法人のお客さま(テナント企業さま)には事業展開にふさわしい土地を提案することで、双方のニーズを結び付けていく仕事です。
- ※本稿は2021年6月1日取材時点の内容です。
- ※掲載写真は、新型コロナウイルス感染症対策への対処を行い撮影されたものです。対話は、オンラインで実施されました。
CONTRIBUTORS
今回、対話するのは・・・
お客さまの思いにじっくり寄り添いながら地域社会を笑顔にしたい!
後藤 潤子
大和ハウス工業株式会社
城東支社
流通店舗事業部 営業課
2006年、新卒採用にて大和ハウス工業東京本店の流通店舗事業部に、初の女性営業として配属される。以降、一貫して関東地区における流通店舗の営業を担当し、2015年に社長表彰。その後、産休・育休を経て復職し、2018年より城東支社に勤務。育児と仕事を両立しながら、後輩社員の育成も担う、女性営業の先駆者として活躍中。
個性や感性を生かして働ける環境が当たり前になる社会をつくります!
横石 崇
&Co.,Ltd.代表取締役
Tokyo Work Design Weekオーガナイザー
1978年大阪生まれ。多摩美術大学卒。広告代理店、人材会社を経て、2016年に&Co., Ltd.(アンドコー)を設立。ブランド開発やコミュニケーション戦略、組織変革を中心としたプロジェクトプロデューサー。毎年11月に開催している、アジア最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」では3万人の動員に成功。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」支配人。代官山ロータリークラブ会員。法政大学兼任講師。NewsPicksカルチャープロデューサー。米国ビジネス誌「FAST COMPANY」をはじめ国内外でアワード受賞。著書に『自己紹介2.0』(KADOKAWA)、『これからの僕らの働き方』(早川書房)がある。2021年に、渋谷区発の起業家育成機関「渋谷スタートアップ大学(SSU)」を創立し、事務局長を務める。
ダイバーシティ&インクルージョンの重要性が高まる背景の一つには、業種や職種、属性の異なる多様な人々とのコラボレーションによるイノベーションへの期待があります。その成功要因は、多様な人々が互いに「信頼」し合えることであり、その第一歩にある「自己紹介」のアップデートが重要になる――。
こうした背景から、横石さんは、自身の著書において「自己紹介」の新しい方法論を提案しています。その一つが、自分のキャリアを「タグ付け」してみること。二人の対話は、後藤さんと横石さんそれぞれの「タグ」を共有することから、スタートしました。
1
自分に「タグ付け」してみたら、
我慢しない職場づくりが見えてきた
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自分のキャリアに対する価値観やスキルを、SNSのハッシュタグのように「タグ付け」して、お互いに共有する。いろんな人が集まって、何か新しいことをしようというときに、「タグ」があれば、自分ができることと相手から求められることが明確になって、仕事のマッチングが円滑にできるようになります。
後藤さんのタグにはまず、「# 聞き役」とありますね。
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周りから、よく「後藤さんの打ち合わせは長い」といわれています(笑)。自分では、お客さまとお話しするときに、相手の懐に入ることが大切だと思っています。
営業の仕事だと、やはりお客さまの思いをいろいろ聞き出すことが提案のポイントになってくることも多いので、なるべく聞く側に立って、心地よくお話してもらえるような場をつくっています。
後藤潤子さんのキャリアの#タグ
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聞く側、つまり相手の立場に立つということは、「# 細かな配慮」というタグにも関連しそうですね。配慮というのは、相手に喜んでもらえるように、といった感覚からくるのでしょうか。
後藤さんの流通店舗営業のお仕事は、土地の所有者とテナント企業という二者を相手に、双方の間に入って調整をされるのだと伺っています。簡単なお仕事ではないですよね。どういう経験から学ばれたのですか。
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そうですね。私の仕事は、土地オーナーさまのところへご訪問することから始まる場合が多いです。でも、見知らぬ営業担当者がいきなり家に来て営業をされるって、相手にとっては、すごく不安だし、不快だと思うんです。それをいかに払拭して話を聞いてもらえるか、を考えるのが仕事の原点になっています。
相手の立場から考えて行動することは、仕事を通じて培ったものかなと思います。
後藤さんが担当した高齢者施設、ツクイ・サンシャイン杉並のオーナー榎本さまと。
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流通店舗営業としてのスキルやマインドには、男性・女性といった性差は関係するのでしょうか。この対話の大きなテーマがダイバーシティ&インクルージョンですので、ぜひ率直なお話しを聞かせてください。
あわせて、これからダイバーシティな環境整備が加速化されていくときに、後藤さんが実現したいことや、「もっとこうなったらいいのにな」というようにモヤモヤしていることがあれば教えてください。
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流通店舗営業の仕事に求められるスキルやプロセスは、男女に違いはなく、共通だと思います。モヤモヤについては、実はタグに挙げた「# 限られた時間で成果を出す」が関係してきます。営業の仕事には、数字の目標がありますので、育児や介護などによる時間の制約の中で、難しさを感じることもあります。
今後は、時間の使い方も含め、もっと多様な働き方が求められてくると思うので、それが当たり前に受け入れられるような、精神的なサポートも含めた職場環境づくりができるとよいと思います。
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それは大和ハウスに限らず、多くの日本企業が直面している課題ですよね。これまでずっと従業員、特に働く女性に我慢を強いるカルチャーが続いてきたことを、日本企業は反省すべきだと思うんです。
それに代わるべき新しいカルチャーが、まさにダイバーシティ&インクルージョンです。だからこそ、女性のためだけではなく、みんなで考えなければいけない職場づくりのテーマです。
[写真左]働き方やコミュニティーづくりをテーマに、年間100以上のワークショップやセミナーを実施。
[右上]オーガナイザーを務める Tokyo Work Design Weekは、現在までに全国各地で3万人の動員に成功した国内最大規模の働き方の祭典。
[右下]キャリアのタグ付けのポイントは、著書『自己紹介2.0』で読むことができる。
2
「ワーク・ライフ・カオス」の共有が
組織を強くする
所属する城東支社の女性社員たちとのワンシーン。女性営業の人数は後藤さんの入社当時と比較して、現在までに10倍ほどにまで増加している。
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キャリアの「タグ」には、どうしても自分のスキルや能力を書いてしまいがちですが、最近、娘の保育園に行ったときなど、「# 青ちゃんのパパ」って話しかけられるのが、なんだかすごくうれしくて。これも一つのタグだと思っています。自分が好きなこと、うれしいと思うことが仕事に結び付いていくように、キャリアのタグの中に、ビジネスシーン以外の育児や家族に関わることが現れてきてもいいと思うんです。
もちろん、男性も女性も同じです。自分の生活や環境もどんどんオープンにしていくことが、職場の環境づくりや、企業文化に反映されていくと思います。
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すごい、いいですね。
男女問わず、プライベートも含めて社員同士、チームのメンバーみんながお互いのことを分かっている、そういう風土ってステキだなと思います。そうすれば、お互いに、より支え合えるようにもなる。私自身も、息子が毎日笑顔で過ごせる平和を祈りつつ、昨今はコロナ禍による在宅勤務もあり、保育園にも預けられない期間は本当に大変でした。
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そうですよね。
「ワーク・ライフ・バランス」という言葉がありますが、家で仕事をするようになって、もはや仕事とプライベートが混ぜこぜの「ワーク・ライフ・カオス」な状況に変わっています。うちの娘は、オンラインの会議に楽しそうに参加してきますし(笑)。そうなると、やっぱりみんなの生活や葛藤などがそれぞれ、どういう状況にあるかを分かっていたほうが組織として強くなれるはずです。
横石 崇さんのキャリアの#タグ
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もうひとつ大切なのは、同僚やチームにおいて、組織が持つ理念やビジョンを共有できている、ということです。それがあって初めてダイバーシティ&インクルージョンが機能してくる。
いろいろな人がいる中で、理念やビジョンという共通の立ち返る場所がないと、「何のためのチームなんだっけ」とか、「自分たちは何をしているんだっけ」という状態になってしまいます。
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そうですね。
大和ハウスグループの経営ビジョンには、私たちは「人・街・暮らしの価値共創グループ」である、という言葉があります。人々の生活に関わる基盤をつくる、「地図にないものをつくる」ことにより、地域の活性化、社会の活性化に寄与する、これが自分たちの仕事だ、という意識は共通していると思います。私自身も、まずは目の前のお客さまであったり、テナント企業さまであったり、その方々にとっての最良の提案をすること。それが形になって、商業施設や介護施設、保育園などを利用される一人でも多くの地域の人たちに喜んでいただいている姿が見えたとき、よい仕事ができたなと感じます。
女性営業のロールモデルとしての責任も大きい。
後輩の育成は「コミュニケーションは多くとりながら、できるだけ本人のスタイルに任せる」主義。
3
未来を生きる子どもたちに、
よい社会を残せる仕事を
子どもたちが生きる未来につながる仕事として捉えれば、目の前にある仕事の見え方も変わってくる。
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地域や社会の活性化も大事ですが、さらに大きなスケールでの課題解決、30年後、50年後の未来を見据える必要性について最近よく考えています。例えば、このままいくと、世界の街のいくつかは地球温暖化による海面上昇によって沈んでしまうという話があります。
子どもたちの生きる未来に思いをはせると、大和ハウスグループとして、事業を通じてこうした日本そして地球規模の危機を乗り越えることにつながる仕事ができれば、と考え始めています。
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なるほど、すごいですね。
領域は異なりますが、日本サッカー協会では、「2050年までにワールドカップ優勝」を掲げて、そこから逆算する形で、中期計画3を策定しているそうです。2050年にフィールドに立つ選手が20歳くらいだとすると、まさに僕らの子ども世代が彼らの親になるわけですよね。つまり、僕らの世代がサッカーに対する日本のよいカルチャーをつくり、子どもたちに伝わるよう行動しなければ、ゴールは達成できない。未来は、意外と遠い話ではないと感じています。
(3)FA中期計画2021-2024(日本サッカー協会、2020年12 月26日)
https://www.jfa.jp/about_jfa/plan/ -
確かに。
今の自分の生き方を考えさせられます。
未来をつくるのは、今の私たちだということですよね。横石さんのお話を伺い、普段は目の前にある仕事をがむしゃらにやっていますが、会社の事業を通じて未来を生きる子どもたちに、よりよいものを残せるような仕事がしたいと改めて思います。ですから、会社の利益のためだけではなく、課題解決につながったり、社会のためになって、自分自身が子どもに誇れる仕事こそが、本当の意味での「よい仕事」なのではと思うんです。
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息子さんの存在があってこそ、ですね。
僕も、娘が生まれて社会との関わり方が変わりました。
今大学で教えている学生たちを見ていても、「自分の個性とか自分の感じていることが、ちゃんと人の役に立つのだ」ということを知って、生き生き働ける人が増えるといいなと思うんです。そうしたきっかけづくりをちょっとずつ積み重ねていくことで、今はできていなくても必ず実現できる時がくると信じています。
学生たちに「社会は、自分の好きなことや感じていることを我慢する場所ではなく、生かすための場所である」と指導している。
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そうですね。
横石さんの仕事は、いろいろな人の働き方を変えていくのでしょうし、メッセージを受け取った学生たちを通じて横石さんの思いが広がり、より前向きな学生が増えるように思うので、未来が明るい気がします。 -
ありがとうございます。
自分の好きなことや得意なこと、うれしいと感じることを我慢しながら社会にでるのはもったいないと思うんです。それぞれの個性や感性が持ち込まれ、組織に多様性がでてくると、あうんの呼吸で進んでいたものが進まなくなるとか、つまずくことも多くなるでしょう。ですが、未来を考えようとするとき、多様な組織は一気に強くなれる。地図にないものをつくるとき、公園に興味がある人と、ビルに興味がある人と、猫が住んでいるところに興味がある人、それぞれがいたらいろんな地図がつくれますから。多様でなければ、未来を想像することも、創造することもできない。
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私も同じように思います。
今、いろいろな環境にある人が多様な働き方ができるようになってきたことで、組織も多様になりつつあります。私自身、今日、横石さんとお話してみて、会社の枠を超えた意見交換から、多くのブレイクスルーが生まれそうな予感がしました。
多少のつまずきがあったとしても、多様性からこれからの会社の成長が見えてくるのだろうと思います。
「子どもに誇れる仕事をすることが、本当の意味で“よい仕事”だと思っています。」
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まとめ
男女にかかわらず、ライフステージや暮らしの変化は、ワークスタイルが進化するきっかけにもできる。その過程にあるカオスを乗り越えたとき、自分らしさと融合した多様なキャリアの強みが生まれ、組織が強くなる。
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対話をつなげよう
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大和ハウスグループでは、新卒採用における女性比率30%を目標に、積極的に女性を採用しています。その結果、2006年に1.2%だった営業職の女性比率は、2020年に10.2%となりました。まだまだ少数派ながら、後藤さんのように使命感を持った女性営業が、イキイキと輝きながらよい仕事を積み重ね、後輩たちの道標となっている姿をとても頼もしく感じます。
後藤さんが営業職でも短時間勤務を選択しているように、新たな働き方を実践する社員も増えてきています。当社はまさに、多様な働き方を受け入れる職場風土へと変化していく過渡期にありますが、今を乗り越えた先に、さらに強い組織として進化していくことを期待します。
今後も、性別に関わらず変化を起こしていただける人財を積極的に採用していきます。東京本社人事部採用・教育グループ グループ長
松本 由香子