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秋葉淳一のトークセッション 第1回 LexxPlussが挑む物流の自動化と効率化株式会社LexxPluss 代表取締役 阿蘓 将也 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一
公開日:2025/01/31
社会的なインパクトを感じ創業
秋葉:最初に阿蘓さんがLexxPlussを立ち上げられた経緯など教えていただけますか。
阿蘓:私は名古屋大学の機械工学科を卒業後、イギリスのマンチェスター大学で工学デザインを学びました。前職はボッシュという自動車サプライヤーの会社です。日本とドイツで自動運転の開発を行ったり、自動運転のシステムを設計したりしたことが、私のエンジニアとしてのバックグラウンドとしてあります。
2015年に入社した当時は、米大手IT企業が自動運転に投資を始めて、自動車業界でもこれからは自動運転だと投資を始めているようなフェーズでした。自動運転のような巨大なシステム作りはなかなか関わることができない貴重な体験なので、エンジニアとして大きく成長できたと思っています。
しかし、自動運転を進めていく上で、IT企業が投資しているから、自動車メーカーが投資しているからというような、競合優位性を競うような形で技術が成長していくことに1エンジニアとしては疑問もありました。企業は一応「自動運転のこの機能を来年には大量導入します、もうすぐサービスインします」などと言うものの、実際にそれをどう実現するかあまり見えていない状態だったり、何の課題を解決したいかということよりも、技術の競争のような観点で開発が行われている感覚を覚えていました。開発の目的が見えない中で、「これは何のためにやっているのか?」という疑問が少しずつ自分の中で大きくなり、せっかく働くのであれば、個人的な興味も含めて、意味のあることをやりたいと考えるようになっていきました。
秋葉:確かに、現在のように2024年問題の解決などの具体的な目的意識は薄かったように思います。物流業界との接点はあったのですか。
阿蘓:前職での最後のプロジェクトが構内物流の自動化、トラック自動化のプロジェクトでした。ボッシュジャパン、大手3PL会社、大手商社の3社の合同プロジェクトで、構内のトラックの自動化に、元々ボッシュで作っていた自動駐車の技術を応用させてBtoBのビジネスにするというプロジェクトに技術責任者として関わりました。このプロジェクトを通じて初めて物流業界の方にお会いしたことが、実態を知るきっかけになりました。それまで物流はあまり興味もないような領域でした。アマゾンでクリックするだけで翌日ものが届くことが当たり前だと思っていたのが、実はバックヤードはすごく人に依存していて、これが10年、20年続けられるようなインフラではない。私としてはそれがすごく面白く見えました。自動運転で人目に見えるタクシーや一般乗用車を自動化する世界よりも、少し陰に隠れるかもしれないけれど、インフラとして機能させるためにはそういうところから解決しなければいけないし、そのほうが社会的なインパクトが大きいのではないか、そう考えるようになりました。そして、大手企業の中で新規事業をやるより自分でやったほうが早いだろうという結論に至り、創業する1年前頃から準備をして、2020年3月に創業しました。
秋葉:物流業界は地味ですが、なくてはならない社会のインフラです。しかし、プロジェクトにかかわられたとはいえ、思い切った転身でしたね。
阿蘓:私はもともと物流の専門性が高いわけではなく、主体的に物流業務をやったことがないので、例えばピッキングシステムのような物流の工程に特化したところは正直分かりません。自動運転なので、搬送作業や何かものを動かすところで自分たちの技術を応用できるのではないかという観点で、最初はお客様のヒアリングをしながら手探り状態でした。
創業したのが新型コロナウイルス感染症拡大の第1波の時だったのですが、結果的に物流は止まらず、むしろ自動化を進める雰囲気があったので、現場にお伺いすると、聞けば教えてもらえる状況でした。最初の構想として、ラピュタロボティクスさんのピッキングアシストロボットやいわゆる棚搬送型ロボットなど、着眼点としてはさまざまありました。ただ、人と共存するエリアでの自動化はまだまだ開拓余地が大きいと思っていたので、工程に特化というより、工程間の搬送作業に合わせた形で最初のプロダクトモデルを作り始めました。
秋葉:それがLexxTugというソリューションになったのですね。
阿蘓:そうです。LexxTugを利用することで、かご台車や6輪台車のような汎用台車を無改造で500kgまで自動搬送することができます。自動脱着機能があり、現在の運用を大幅に変更しなくても搬送工程の自動化ができます。カゴ台車や6輪台車のような既存の台車を取り扱わざるを得ない現場があって、例えば卸や小売は店舗にそのまま台車を持っていき、店舗でその台車を使って降ろして、それをまた物流センターに持っていくので、物流機器を変えられません。建屋は新しいのに、ロボット向けのシステムと台車を入れられない業種の自動化がまったく進んでいません。そこで、既存の台車を取り扱える搬送機器として今年から売り出しました。LexxPlussでは、人と隔離して工程自体の生産性を上げるタイプではなく、人と共存するエリアで使うことで全体のオペレーションを改善していくソリューションを提供しています。
精度とフレキシビリティを両立させたソリューションを開発
秋葉:私たちも2015年頃からロボットを扱い始めました。店舗に届ける場合は別にして、工程間の搬送を自動化するには、コンベアを敷くか固定設備を入れるかで、あとは人がやることになります。アマゾンロボティクスのKivaシステムのようにピッキングゾーンの中でAGV(Automated Guided Vehicle)を走らせてステーションに棚を持ってこさせるやり方は、人との共存ではなく人の歩行を減らすもので、設備の配置が固定化されていれば可能ですが、搬送の作業は固定化されていないので、人が行っているケースが多いのが現状です。これは工場の中もそうだし、物流センターの中も同じです。さらに搬送の作業はほぼ片道の仕事なので、片道は手ぶらになります。それでもそれが必要だと判断して、固定設備を入れることができないから人間がやっているというのが実態なのだと思います。ですから、LexxPlussの目の付け所は非常に良いポイントです。
ただ一方で、ある程度人が雇えるのであれば、そこにロボットを投資するのかという問題は依然として存在します。搬送が作業として切り出されていないケースが非常に多く、一連の業務プロセスの中の一つになっていて気づいていない。だから、そこに気づかせないといけません。
この「人の問題」「作業としての切り出し」両方が必要だという話を、最初に阿蘓さんにお会いした2015年の夏頃にお話ししましたね。
工程間の搬送をなぜ人がやるかというと、細い場所、長い距離も行かなければいけないし、途中に物が置かれているかもしれないからです。自動化を前提に設備の配置や通路を決めていないケースが多いので、それをクリアするには、線を引いてやっていたらまったく意味がない。AMR(Autonomous Mobile Robot)だと自由に走行しますが時間がかかってしまう。そこをどうやってクリアするのかと思っていたら、LexxPlussのソリューションはハイブリッドでしたね。
阿蘓:Lexx500は、自律制御と高精度ガイド制御のハイブリッド制御を特徴とする次世代の自動搬送ロボットです。ハイブリッドなので、いわゆる自動運転のように周りの景色を見ながら自分で考えて動くモードと、線を引いてその上を動くモードがあります。線の上を動くタイプから無軌道型に切り替えようという文脈はけっこうあるのですが、一方で、定型的に動きたいところ、設備連携が細かくあって高い精度で動かなければいけないところもあります。無軌道が正で線に従うのが間違っているという話ではなくて、どちらも良いところがあるので、両方使う前提でシステムを作ったほうがお客様の使い勝手が良くなるというのが最初の着眼点でした。このハイブリッド技術により、搬送経路が狭い製造工場や、ドライバーや作業員が激しく行き来する物流現場など、自動化が困難とされていた施設や環境でもロボットが搬送業務を担うことが可能です。また、Lexx500は、LexxTugおよびLexxHubと連動し、「搬送作業の自動化」以上の効果を生み出すことができます。
秋葉:これはありそうでなかった。ただ、言うのは簡単ですが簡単にできるものではないですよね。
阿蘓:自動運転のような大きなシステムを扱う上で、単純に併用するというより、お互いのメリットがきちんと出るようにシステムの構成を作ることが重要です。前職で大きなシステムを作った経験から、「物流の自動化に応用するには」という観点で作っていたので、そこがアドバンテージとしてあったと思います。
秋葉:今までは、例えば「二次元コード」を碁盤の目に配置した場合、当然ある程度の精度で碁盤の目に沿っていきますが、きちんと止めたいと思った時に数十ミリ単位でずれてしまう。人間からすると2、3センチは大した話ではないかもしれませんが、固定設備と接続する場合は致命的です。それを使うために余計に工事をしなければならないといった話も課題に上りつつありました。そうであれば、有軌道はどれくらいの精度で止められるのか。最初にお会いした時にもこの問いを投げかけました。
阿蘓:そうですね。結果、3ミリ以下で場所を特定して止まる保証ができるシステムになっていますので、精度とフレキシビリティの両立ができます。
秋葉:物流センターは固定設備だけではないので、フレキシビリティはとても重要です。
自動化できる領域、効率性を高められる領域は多い
秋葉:2020年の創業からまだ5年ですが、LexxPlussはすでに注目されています。それに、課題解決の入り口を大事にしていて、阿蘓社長が社内外に向けてそれを口にしています。そのような中でLexxTugという台車の搬送に力を入れているのはポイントですね。
阿蘓:そうですね。既存のオペレーションが走っているからこそ自動化が着手されていない領域であり、一方で、それだけ自動化できるチャンスもあります。運用をどう変更していくかの観点が噛み合わないと、自動化を入れても効率性が上がらない。しかし自動化を入れなければ、その運用がずっと続いて潜在的にも辛くなっていく。そこの車輪の両方を一緒に回さなければいけません。中長期的な話にもなりえますが、やらなければいけない領域です。
例えば、ある大手食品問屋さんの物流センターは約280拠点あって、アマゾンさんのフルフィルメントセンターは28拠点です。これはECと一般の小売りの割合に似ていて、オペレーションしている倉庫自体が非常に多い。アマゾンさんの6割以上にアマゾンが作っているロボットシステムが入っていて、食品問屋さんにはほぼ入っていない。この状態だけを見るとオポチュニティは大きいのですが、運用の改善も一緒にやらなければいけないし、今日明日でできるようなことではないので、チャレンジングな部分でもあります。ただ、既存の台車を運用するという着眼点で見ると、自動化できる領域、効率性を高められる領域はたくさんあります。
秋葉:物流現場に入って実際にお仕事をするようになって、何か驚きはありましたか。
阿蘓:物流業界は入り組んでいます。ライバル同士の運送会社で共配したり、荷主がオペレーションをしている場合と3PLがしている場合があったり、荷物によって少しずつ形が変わったりもします。外からだと、「物流×自動化=アマゾン」というような単純な文脈で、アマゾンがやっているから自動化はできると見ている。ところが、職種、業種、オペレーションを見ていくと、切り方は難しいですし、課題の濃淡があります。そこが難しい部分でもあるし、実態はそれほど進んでいないからもっと進めないといけないという自分の課題意識、危機意識にもつながっていたりします。
秋葉:ロボティクスの表面だけ見ると、そう見えてしまうのでしょうね。おっしゃるように、課題は1社1社異なります。
阿蘓:先日ある配送会社さんでPOC(Proof of Concept:プルーフ・オブ・コンセプトの略、実現可能性や効果を検証するプロセス)をさせていただいたのですが、現場はかなり人に依存していました。 中には、バース管理も入っていない拠点で、管理する人のスキルセットや寝不足かどうかといった要素がオペレーションを左右するほど人手に依存している企業もあります。人がいる前提であればいいのかもしれませんが、最初に自動化システムやバース管理を前提にしてオペレーションを組み合わせたほうがいいですよね。そこの意識改善も含めて展開していかないと、10年後に同じ状況のまま変わらなかった場合、物流が頻繁に止まることもあり得るのが目に見えています。
秋葉:完全に発想から変えなければいけない問題ですね。例えば、「秋葉がやっていた作業を、秋葉という人間ではなくロボットに変えよう」と考えるか、「ロボットを入れる前提でどうするか」と考えるか。いきなりロボットありきにはならないかもしれませんが、最初に「こうしたい」というイメージ考えた上で、「その第1ステップとしてこれをやって、POCやりましょう」だったらいいのですが、「秋葉をロボットに変えよう」のPOCだとすると、なかなか進まないし、何をもってうまくいっていないと判断するのか、判断できなくなってしまいます。そこがすごく大きいと思います。